東北大ら,アモルファスSiOの構造モデルを解明

東北大学のグループは,物質・材料研究機構,日産アーク,科学技術振興機構及び高輝度光科学研究センターと共同で, 「オングストロームビーム電子回折」と,「放射光高エネルギーX線散乱」の両方の実験データを同時に計算機シミュレーションに反映させることにより,長い間議論されてきたアモルファスSiOの信頼性の高い構造モデルを得ることに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

具体的には,「オングストロームビーム電子回折」により得たアモルファスSiO中の2種類のナノスケール領域(電子顕微鏡像で識別可能)と,その境界からの電子線強度をそれぞれ平均して得たプロファイルと,「放射光高エネルギーX線散乱」により得た定量性の高い広い領域からの平均構造の両方を満たすような不均一構造モデルを,スーパーコンピューターを用いた計算機シミュレーションによって構築した。

得られた構造にはSiやSiO2中に見られるもの(Siの隣に4つのSi及びSiの隣に4つのO)に加え,それらとは異なる特徴的な原子の並び方(Siの隣に3つのSiと1つのO,2 つのSiと2つのO及び1つのSiと3つのOの3種類)が境界領域に形成されていた。

さらに,そのエネルギー的な安定性を評価したところ,様々な原子の並び方が含まれているこの不均一構造モデルは,原子が均一に分布した均一モデルよりもはるかに安定であることを突き止めた。これらの結果から,アモルファスSiOは,SiとSiO2の他に3種類の構造が混ざった複雑な状態として安定に存在するということがわかり,これまでの論争に終止符を打った。

また,こういった不均一構造における境界領域は,材料の性質を決める上で重要な鍵となるため,今回ナノスケール領域の境界領域のみからの構造情報を検出でき,さらにその原子配列を可視化できたことは画期的だとしている。

研究では,原子の並び方が乱れ,かつ,異なった領域が複雑に入り組んだナノスケール構造を持っている不均一アモルファス構造の可視化に世界で初めて成功した。例え るならば,森に異なった種類の木が何本かの集団を作って生えていたとした場合,オングストロームビーム電子回折ではそれぞれの木の集団とそれらの境界領域を観察し,放射光高エネルギーX線散乱では木の集団が並んで出来た森全体を観察したことになるという。

さらに研究では,異なった木の集団と木の集団の間にはその両方の木とは違う種類の木が存在していたことを発見し,それを実際にスーパーコンピューターを用いた計算機 シミュレーションにより可視化したと言える。

この手法は,他の不均一なアモルファス酸化物や酸化物ガラスにも応用できるほか,金属等の不均一アモルファス構造にも適用可能なので,幅広い波及効果が期待できる。また,アモルファスSiOは次世代電気自動車に搭載する高容量リチウムイオン二次電池の電極材料としても注目されていることから,電池動作の仕組みの解明にも繋がると期待されるとしている。

研究グループは今後,電池が動作している状態での実験を試みる予定。また,計算機シミュレーションについては,数学・情報科学との連携を図り,実験・理論・データ科学を駆使した,世の中に役立つアモルファス材料の研究を世界に先駆けて展開していくとしている。

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