JSTさきがけの研究事業の一環として,滋賀医科大学の研究グループは,実験動物中央研究所応用発生学研究センターとの共同研究により,霊長類であるカニクイザルで遺伝子改変動物の作製に成功した(ニュースリリース)。緑色蛍光タンパク(GFP)を発現するカニクイザルの報告は世界初。
これまで遺伝子改変が容易なげっ歯類を用いて多くのヒト疾患モデル動物が開発されてきた。しかし,げっ歯類モデルではヒト病態を再現できない例がインフルエンザを含め報告されているため,よりヒトの病態を忠実に再現できる非ヒト霊長類モデルの開発が期待されていた。
特に旧世界霊長類は胚や胎盤の構造,内分泌・代謝,さらには血清,血液成分の多くがヒトに類似しているため,得られたデータのヒトへの外挿が比較的容易だと考えられる。実験動物用の旧世界霊長類としては,アカゲザルが挙げられるが,繁殖に季節性があるため,年間を通じて繁殖可能なカニクイザルの有用性が高い。
トランスジェニック霊長類の作出は国内では一例のみであり,トランスジェニックカニクイザルの作出例は報告されていなかった。そこで研究グループは,遺伝子改変霊長類の作出法を研究し,その確立に成功した。
この遺伝子改変カニクイザルの作出では,未受精卵の囲卵腔へウイルスベクターを注入してGFPをコードする遺伝子を導入した。遺伝子を導入した未受精卵はヒトの不妊治療でも用いられている細胞質精子注入法(ICSI)で受精させ,数日間培養を行ない,GFPを発現した受精卵だけを選んでカニクイザルの仮親の子宮へ移植した。
この方法により,生まれてきた2頭のカニクイザル全てが遺伝子改変カニクイザルであること,そのうち1頭は,さまざまな体細胞で外来遺伝子が均一に発現していることが確認された。
従来の方法である受精卵ではなく,より早い段階である未受精卵にウイルスベクターを注入したことで,産まれた子が均一にGFPを発現する遺伝子改変カニクイザルの作出を可能にした。
確立したカニクイザルの遺伝子改変技術を用いて家族性アルツハイマー病の原因遺伝子である変異型APP(β-amyloid precursor protein)を導入した家族性アルツハイマー病モデルカニクイザルを作製し,治療法開発研究などへの貢献が期待されるという。
また,さまざまな細胞,臓器移植研究に使用可能な移植免疫寛容GFPカニクイザルの作製を行ない,大学の中期目標である神経難病研究,総合がん医療推進研究,生活習慣病,サルを用いた再生医学研究に役立てていきたいとしている。
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