理化学研究所(理研),産業技術総合研究所の共同研究チームは,神経突起を光で誘導するための光活性型ペプチドを開発した(ニュースリリース)。
神経回路を作るために伸長している神経突起は,正しい方向へ旋回を繰り返して最終標的へ到達する。神経突起は細胞外から流入したCa2+からははねのけられる,また小胞体ら放出されたCa2+には引き寄せられるといったように,Ca2+供給源の違いを識別して応答している。しかし,その適切な応答を誘起する仕組みについては明らかにされていなかった。
共同研究チームは,Ca2+供給源の1つである小胞体からのCa2+を特異的に検出するタンパク質分子「ミオシンVa」を同定した。そして,Ca2+により活性化されたミオシンVaが,神経細胞で膜小胞を動かし,神経突起の誘導をつかさどることを発見した。
このメカニズムに基づき,ミオシンVa活性化を模倣する光活性型ペプチドを開発し,このペプチドを導入した神経細胞の一部に光を照射することで,神経細胞内の特定部位で膜小胞を動かし,神経突起を任意の方向へ誘導することに成功した。
この技術は,Ca2+依存性膜輸送という細胞内の普遍的な仕組みの人為的なコントロールを可能にするもの。今後,光による各種細胞機能の制御技術への応用が考えられるという。
例えば,神経突起の伸長を人為的にコントロールすることは,脳脊髄の損傷により断裂した神経回路を修復するために必須の医療技術となる。この技術は神経回路修復をはじめとした,幅広い医学分野への貢献が期待できるとしている。