信州大,カーボン水・塩分離膜をドライプロセスで合成

信州大学の研究グループは,従来のDLC膜をベースに,ナノ構造を巧みにかつ最適に制御することで,高度な水処理に使用できるナノカーボン製の水分離膜を開発した(ニュースリリース)。

ダイヤモンド構造と炭素構造がハイブリッド化したアモルファス(非晶質)のナノカーボン膜(Diamond-Like Carbon:DLC)は現在,ハードディスク表面や工具類,ペットボトルなどのコーティング材として広範な用途で用いられている。

今回研究グループは,スパッタ法により,ターゲットの高純度カーボンにプラズマ化したアルゴン,窒素,メタンを衝突させることでカーボンなどの分子を弾き出し,多孔性高分子膜(ポリサルフォン/PSU)の基材上に付着・堆積させることで,厚さ20~30nmのナノカーボン膜を形成する。

添加する窒素量の原子レベルでの制御により,脱塩性,透水性,耐塩素性を最適化でき,さらに窒素ドープ量を増やすことで最大96%という高いNaCl除去率を示すことを見出した。この成果は,石油や非在来型資源開発など厳しい条件下での水処理膜の応用展開が期待されるという。

今回の開発したナノカーボン水分離膜は,多孔性高分子膜(PSU)の基材上に成膜されている。すなわち,多孔性高分子膜の基材上に,犠牲層(ポリビニルピロリドン/PVP)をコーティングし,その上からスパッタ法にてナノカーボン分離膜を成膜し,その後コーティング層を溶かすプロセスにより調製している。

この方法で,多孔質高分子基材上にナノカーボン分離膜が均一に成膜できることは,SEM(走査型電子顕微鏡)およびAFM(原子間力顕微鏡)の画像で確認した。

得られたナノカーボン分離膜は,従来のDLC膜よりも柔らかく,透水性および脱塩特性を評価した結果,0.2%のNaCl水溶液から最大で96%という高いNaCl除去率を示すことが確認された。また,殊に添加する窒素ドープ量を制御することにより,脱塩性,透水性,耐塩素性などの特性が最適となる条件を明らかにした。

さらに,スーパーコンピューターを用いたシミュレーションで,アモルファスカーボン(a-C)の窒素ドープ量の違いによるナノ構造モデルを示した。この結果より,a-C中の窒素ドープ量を増やすこと事により,膜中の空隙が減少しており,これが脱塩性,透水性向上に関係していることが確認されたという。

関連記事「京大,世界最高性能のガス分離膜材料を作成することに成功」「NEDOなど、蒸留工程の50%以上の省エネ化が可能な無機分離膜を開発