筑波大ら,KTN結晶のナノサイズ極性領域を検出

筑波大学は,日本電信電話,島根大学との共同研究により,強誘電体結晶であるリチウムを添加したK(TaxNb1-x)O3(KTN)について,その巨大電気光学効果の発現メカニズムの解明に取り組みんだ。

ラマン分光スペクトルの温度依存性,偏光角度依存性,電場依存性を調べることにより,KTNの連続準位を持つナノサイズ極性領域と離散準位の光学振動モードとの相互作用によりファノ共鳴が起っていることを解明し,ファノ共鳴の観測からナノサイズ極性領域を検出する手法を確立した(ニュースリリース)。

今回調べたKTNは,室温より少し低温で誘電率が最大となる強誘電相転移を示し,室温の常誘電相において電気光学定数が非常に大きくなるという特性を持っている。研究では,リチウムを添加したKTNの単結晶試料について,ラマンスペクトルの温度依存性の実験により,200cm-1付近にある光学振動であるTO2モードとファノ共鳴について強誘電相転移に伴う顕著な温度変化を見出した。

また,ラマンスペクトルの角度依存性の実験により,偏光角度依存性を初めて明らかにし,ナノ極性領域の三方晶系の対称性を明らかにした。さらに結晶に外部電場を印可した状態でのラマンスペクトルの電場依存性を測定し,ナノ極性領域の局所分極の配向性を明らかにした。

これらの結果から,KTNのラマンスペクトルにおけるファノ共鳴は,連続準位を持つナノサイズ極性領域と離散準位のスレーターモードとよばれる光学振動の相互作用により起こることが初めてわかった。この結果は,ファノ共鳴の観測によりナノサイズ極性領域が検出できることを示している。

KTNはタンタルとニオブの組成比を変えることにより,強誘電相と常誘電相とが転移する温度(キュリー温度)を極低温から摂氏400度の高温までの広い温度範囲で制御することができる優れた強誘電体材料。巨大電気光学効果や非線形光学効果などにより有望な機能性材料として期待されており,特性をさらに向上させるためにリチウム以外の添加も検討されている。

今回の研究の手法は,KTN系の誘電体材料の改良とともに,広く無鉛系誘電体材料開発のさらなる進展に寄与するとしている。またこの手法は,結晶だけではなくセラミクスやナノ粒子など広く適用できるので,今後の無鉛系誘電体材料における優れた機能性発現の指針となるナノサイズ局所構造の評価に役立つと期待できるいう。

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