理研ら,SFXに必要な結晶の量を数百分の1に

理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センター,学習院大学らの共同研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」のX線レーザーを用いた「連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)法」と呼ばれる手法において,結晶構造の決定に必要な結晶の量を従来の数百分の1程度と大幅に抑えることに成功した(ニュースリリース)。

SFX法では,発光時間がわずか10fs以下のX線レーザーを,μmサイズのタンパク質微小結晶に照射して構造観察を行なう。この際,1度のX線レーザーの照射により結晶は壊れてしまうため,次のX線レーザーに合わせて新しい結晶を照射領域に用意する必要がある。

これまでは,結晶を分散させた液体を試料として,液体ジェットインジェクターから高速で吐出し,X線レーザーの照射領域に送り込む手法が多く利用されてきた。しかし,試料を連続的に流し続ける必要があるため,構造の決定には大量の結晶が必要だった。

共同研究グループは,パルス液滴法という,タンパク質微小結晶を含む液滴を空間的・時間的に高い精度で制御する手法を開発した。これは,正確なタイミング信号と高精度マニピュレーターによってパルス液滴ノズルを制御する手法の確立と,ノズルから吐出された微小液滴(直径0.1mm以下)の挙動を高倍率かつ高速でモニターできる光学システムの構築により実現した手法。

共同研究グループは,SFX法とパルス液滴法とを組み合わせ,サイズ約5μmのリゾチーム結晶を含む試料に波長1.77オングストローム(Å、1Åは100億分の1m)のX線レーザーを毎秒30回照射して結晶構造解析を行なった。

30分程度の測定時間で34,322枚の回折イメージを収集し,そのうち4,265枚で良質な回折パターンが認められた。解析の結果,リゾチームの結晶構造を空間分解能2.3Åで決定することに成功した。

これにより,SACLAのX線レーザーによるSFX法とパルス液滴法を組み合わせることで,0.3mg以下という微量の結晶から構造決定に十分な量のデータを収集できることを実証した。液体ジェットインジェクターを利用した従来のSFX法では,同様のデータを取得するための試料を用意するために10~100mgの結晶を必要としたが,パルス液滴法によって必要な結晶の量を従来の数百分の1程度と,劇的に減少させることができた。

パルス液滴法をSFX法と組み合わせることで,大量調製が困難なタンパク質や他のサンプル導入法では扱うことができなかったタンパク質についても,結晶構造解析が可能になる。また,今回は試料を供給する液滴ノズル径を80μmにしているが,30μmにすることで結晶の消費量をさらに1桁減少させることが可能。

解析するタンパク質結晶の特性に適した試料の導入法を実装することで,SACLAはよりユーザーフレンドリーな施設となるとしている。今後,外界からの刺激に反応する受容体,イオンポンプなどの輸送体や,創薬ターゲットとなる膜タンパク質など,さまざまなタンパク質の構造がSACLAにおいて決定されることが期待できるとしている。

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