海洋研究開発機構(JAMSTEC)と広島大学の研究グループは,母天体における衝突により高温高圧を経験した隕石中に,超高圧でしか形成されない特殊なガーネットを世界で初めて発見した(ニュースリリース)。
地球の地殻やマントルには,マグネシウムに富む(MgSiO3成分に富む)輝石というケイ酸塩鉱物が豊富に含まれている。MgSiO3輝石は16-22万気圧の圧力,1,600-2,400°Cの温度で「正方晶ガーネット」と呼ばれる輝石より密度の高い結晶構造に鉱物転移することが,1980年代半ばの高温高圧合成実験により知られていた。しかし,天然の岩石中に正方晶ガーネットが見つかった例はこれまでなかった。
ケイ酸塩の超高圧相の多くは,地球外からもたらされる隕石の中から発見されている。多くの隕石の起源は,小惑星帯と考えられている。その小惑星は地球よりはるかに小さい天体だが,相互の高速衝突により,非常に短時間に地球深部に相当する高温高圧状態が達成される。
研究グループは,1879年にオーストラリアに落下した隕石に含まれる,衝撃で変成した部分(衝撃溶融脈)を詳細に解析した。この衝撃溶融脈には母岩のコンドライトに含まれる鉱物の破片が取り込まれ,固体のまま超高圧相に相転移している。偏光顕微鏡による観察により,コンドライトの破片に含まれる輝石粒子の外縁部が,通常と異なった構造に変化しているらしいことがわかった。
そこで,この輝石の外縁部を,数十ナノメートルスケールで微細加工ができる集束イオンビーム加工装置(FIB)を用いて岩石研磨片から切り出し,厚さ100ナノメートルほどの薄膜にし,超高空間分解能の透過電子顕微鏡(TEM)を用いて,さらに詳しい観察を行なった。
観察した領域は,平均で500㎚ほどの微細な粒子から構成されている。分析の結果,これらの粒子は全て,母岩のコンドライトに含まれる輝石と同じ化学組成 (MgSiO3)を持つことがわかった。高感度のCCDカメラを用いて,個々の粒子から電子線回折像を撮影したところ,地表の岩石にみられる一般的なガーネット(アルミニウムに富む)が持つ立方晶の結晶系では観察されない,特定の結晶面からの微弱な反射が存在することが明らかになった。この反射はテンハム隕石中のガーネットが正方晶であることを示している。
その結果,MgSiO3組成に富む正方晶ガーネットを世界に先駆けて同定し,その存在を明らかにした。さらに,このガーネットの生成条件は圧力17-20万気圧,温度1,900-2,000°C,衝撃後の冷却速度は1,000°C/秒以上であると推定した。
今回発見された正方晶ガーネットは,小天体の物性や相互の衝突速度など初期太陽系プロセスを探る重要な鍵をにぎるほか,地球内部のマントルにも存在する可能性があり,マントルの物性を解き明かす上で大きな役割を担うことが期待される。研究グループでは今後,ケイ酸塩鉱物からなる様々な種類の石質隕石について超高圧鉱物とその周辺の鉱物の衝撃組織や元素分布を詳しく分析し,小惑星の表層環境変化を調べる研究を進めるとしている。
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