理化学研究所(理研)の研究チームは,グラフェンなどで見られる質量ゼロの2次元ディラック電子系において,電子間の相互作用が引き起こす金属から絶縁体への相転移(金属-絶縁体転移)が,普遍的な性質を持つことを世界最大規模のシミュレーションにより明らかにした(ニュースリリース)。
電子間の相互作用による金属-絶縁体転移は,物性物理学の最も基本的な現象。その研究は60年以上の歴史があるにも関わらず,どのように相転移するかその具体的な様相が明らかになった例はこれまで限られていた。
この研究には大規模なシミュレーションが不可欠となる。研究チームは,独自に開発した量子モンテカルロ法によるシミュレーションをスーパーコンピュータ「京」で実行した。研究対象として,蜂の巣状をしたハニカム格子とπフラックスを持つ正方格子上における2次元ハバード模型を用いた。
これら二つの模型は格子の形状が大きく異なるにもかかわらず,質量ゼロのディラック電子系を構成している。金属-絶縁体転移の「臨界指数」を正確に評価するために,各クラスタの格子点の数をNとして,N=2,592の系までシミュレーションを実行した。これは,先行研究の計算量の約100倍に相当し,現在までの世界最大規模のシミュレーションを実現したことになる。
研究チームは,金属-絶縁体転移に伴う反強磁性相の強さの指標となる秩序変数に対して有限サイズスクリーン解析を両模型で独立に行なった。その結果,臨界指数は統計誤差の範囲内で一致することが分かった。
次に,より直接的に金属-絶縁体転移の指標となる準粒子重みに対する計算を行なった。その結果,この物理量から得られる別の臨界指数も両模型で一致することが確認された。以上により,普遍性クラスが存在することを示した。
今回の成果は,銅酸化物高温超伝導体やスピン液体などを示す分子性導体といった,ディラック電子を構成しない電子間相互作用が強い系でみられる金属-絶縁体転移を解明する第一歩となると期待できるという。また,ディラック電子系における金属-絶縁体転移の基礎理論は,高エネルギー物理学分野で古くから議論されていたGross-Neveu模型と密接に関連しており,物性物理から素粒子物理までスケールを超えた臨界現象の理解が可能になったとしている。
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