東北大ら,高コントラストなX線装置を開発

東北大学とリガクは,科学技術振興機構の研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム 開発課題名「位相敏感高感度X線非破壊検査機器の開発」)の一環として,工場生産ラインなどでの実用化を想定した非破壊検査用高感度X線スキャナを開発した(ニュースリリース)。

X線画像機器によるX線画像のコントラストは,X線が物体を通り抜ける際に生じる強度の減衰の大小で画像が作られており,これを吸収コントラストと呼ぶ。X線の減衰量(すなわち,物体によるX線の吸収量)は,物質が重い元素でできているほど大きくなる。

逆に,軽元素(水素,炭素,窒素,酸素など)からなる物質では,X線の減衰が小さく,十分なコントラストが得られないという問題がある。生体のやわらかい組織,高分子材料などがこれに当たる。

この問題を克服できる方法として「X線位相コントラスト」の利用が注目されている。位相コントラストは,X線の波が物質中を伝わるとき,その速さが物質の種類や状態によって異なることに基づいて生成される。X線位相コントラスト法に必要なX線源として,シンクロトロン放射光源の使用が前提となってきた。

ただし,シンクロトロン放射光施設は巨大で利用期間も限られるため,工場の生産ラインで利用するには技術を発展させる必要があった。2000年代に入り,東北大学によってX線すだれ格子を用いる位相コントラスト法(X線タルボ干渉計)が実現し,工場や病院で一般的に使われているX線源がそのまま利用できるようになった。今回の成果はこの技術を使っている。

X線は物質中で僅かにその方向が変わる。これは,プリズムで光が曲げられる(屈折される)のと同じ現象だが,X線の場合ではその角度が一万分の1度程度と極めて小さい。この僅かな「屈折」がX線位相コントラスト生成の起源であり,これを検出する仕組みを構築できれば,高感度な撮影がかなう。

開発した装置はX線源と画像検出器の間に3枚のX線格子が数ミクロンの隙間を並べた構造を持っている。これにより検出器の位置ではモアレ模様が生じ,これが検査物体を可視化する仕組みとなる。しかしこの方法は検査物体が静止していることが前提になっており,そのままでは工場の生産ラインで移動する物体の検査には適用できない。

今回,格子自体によって生じるモアレ縞を活用するアルゴリズムを考案することでこの問題を克服した。X線格子は高度な技術を用いても,実際には作製時に歪みが生じてしまう。これが原因となって,検査物体がないときでもモアレ縞が生じる。これを利用し,検査物体がモアレ縞を横切ってゆく動画から,画像出力ができる新しい方法を考案・実装した。

今回の開発成果により,物品の欠陥(ひび割れ,キズ,変形,気泡混入,剥がれ,腐食,接着不良,充填不良,混合不良など)や異物混入を高感度で検査するスクリーニング用X線検査機器として,製品化に向けた目処が立ったとしている。

製品化の見通しとしては,約2年後を予定しているが,試し撮影の希望にも対応するとしている(ニュースリース参照)。

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