東京大学と国立天文台らを中心とする研究グループは,原始星を取り巻く円盤の構造を詳しく調べるため,おうし座にある原始星TMC-1A(地球からの距離 約450光年)をアルマ望遠鏡で観測した。その結果,この原始星を取り巻くガス円盤とその周囲でのガスの動きがこれまでになく詳細に明らかになった(ニュースリリース)。
太陽や夜空に輝く星は,宇宙に漂うガスが自らの重力によって集まることで誕生する。宇宙には「星の卵」ともいえるガスの集合体が数多く発見されており,その中に赤ちゃん星(原始星)を宿したものも多くある。原始星を取り巻くガスの集合体から中心の原始星に向かってガスが流れ込むことで,原始星は次第に成長していく。
この時ガスは直接原始星には取り込まれず,いったん原始星のまわりを円盤状に回るようになる。しかし,この円盤が星の誕生過程のどの段階で作られ,どのように成長していくのかは,観測的研究からも理論的研究からもまだ明らかになっていない。これは,十分な解像度と感度で原始星の周囲を観測できていなかったことに原因がある。
研究グループは,原始星を取り巻く円盤の構造を詳しく調べるため,おうし座にある原始星TMC-1A(地球からの距離 約450光年)をアルマ望遠鏡で観測した。TMC-1Aは誕生直後の非常に若い星で,その周囲にはガスの円盤があり、さらにそれを取り巻くようにガス雲(エンベロープ)が取り囲んでいることが知られている。
エンベロープから円盤にはガスが流れ込んでいるため両者は連続的につながっており,従来の研究ではこれらを見分けるのは困難だったが,アルマ望遠鏡の高い感度のおかげで,高速回転する円盤の速度とその広がりを高い精度で求めることができ,外側にある異なった速度を持つ構造,すなわちエンベロープとの境界が特定でき,エンベロープから円盤に降り積もってくるガスの速度も精度よく見積もることに成功した。
今回の観測から,TMC-1Aの円盤とエンベロープの境目は中心の原始星から約90天文単位の場所にあることがわかった。これは,太陽系の最も外側の惑星である海王星の軌道の約3倍にあたる大きさ。また原始星の質量は太陽の0.68倍であることもわかった。この原始星の質量もこれまでより高い精度で決定することができた。
さらにエンベロープから円盤に向かって流れ込むガスの速度はおよそ毎秒1km,その量は1年間に太陽質量の50万分の1程度であることもわかった。従来,このようなガスの流入は単に重力に引っ張られて落下すると考えられてきたが,今回見つかったガスの流入は,重力に引っ張られて落下する場合よりも緩やかなものであり,これまでの描像とは大きく異なる。磁場の力によってガスの運動が妨げられているのが原因ではないかと考えられるとしている。
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