国立天文台ら,食べ散らかす赤ちゃん星を観測

台湾中央研究院や国立天文台などのメンバーからなる国際共同研究チームは,すばる望遠鏡に搭載された赤外線高コントラスト撮像カメラHiCIAO(ハイチャオ)を用いて,星と惑星が活発に成長していると考えられる現場を捉えることに成功した(ニュースリリース)。

分子雲や星周物質はガスと塵の混合体。塵はガスに比べて微量だが,ガスの中の塵は中心星からの光を散乱するために星周物質が光り,その分布を観測することができる。HiCIAOは,このような散乱光の観測に特に威力を発揮してきた。研究チームはこのカメラを用いて,FU Ori 型と呼ばれるバーストを起こしている,太陽系から約1500-3500光年離れている4つの星を観測し,星周物質の分布を詳細に捉えることに成功した。

コロナグラフ偏光撮像によって観測された画像は,これまで観測されてきたどの赤ちゃん星とも大きく異なる。3つの星では星周物質の分布に尾のような構造が見られ,さらにそのうちのひとつでは渦のような運動に伴うとみられる構造がある。

別の星では中心星から複数の筋のような構造が伸びていて,中心星でのバースト(突然の増光を伴う突発的な質量降着)が星周物質を吹き飛ばしたかのようにも見える。あたかも,夢中に食べる人間の赤ちゃんが「ごはん」を食べ散らかしているかのようだとしている。

このような星周構造が赤ちゃん星のまわりで観測されたのは,世界で初めて。力学構造のコンピュータシミュレーションを行なった結果,ガスと塵の混合体である星周物質が降着して星が生まれる際に,落下運動,軌道運動,そして星周物質自身の重力により,コーヒーに少し注いだクリームのような複雑な構造ができることがわかった。

赤ちゃん星に降り注ぐ物質はこのように複雑な分布をしているため,星に到着する星周物質の量が大きく時間変動し,時々大きな増光が観測される。研究チームはさらに,HiCIAO で観測できる近赤外線の散乱光のシミュレーションを行なった。観測された構造と全く同じ構造を再現するにはさらなる検証が必要だが,現在のシミュレーション結果は,このシナリオで観測された構造が説明できることをうかがわせるものだとしている。

今回の研究結果は,星の誕生のみならず,惑星系誕生の謎を解く手がかりにもなるもの。これまでたくさんの星のまわりに惑星系が発見されているが,その中には,中心星からの軌道距離が,太陽と地球の間の距離の1000倍以上も離れているものがある。この軌道の大きさは,太陽系の中で太陽から最も離れた海王星の軌道距離(太陽と地球の間の距離の 30倍=30天文単位)よりもはるかに大きい。

一方でコンピュータシミュレーションによると,HiCIAOで観測された複雑な構造の中では,木星や土星のようなガス惑星が成長するはずだとしている。この場合,上述の軌道距離の非常に大きい惑星が存在することを自然に説明することができる。

ただし,星や惑星の誕生の謎をさらに詳しく解明するためには,さらに新しい観測を進め,理論予測と比較していく必要がある。特に,最近チリで運用が始まったアルマ望遠鏡は,電波での高い解像度と感度を誇る望遠鏡であり,星周物質の分布と運動を詳細に観測できると期待している。また,2020年代の運用開始が計画されている30メートル望遠鏡(TMT)などにより,中心星のより近くにある質量降着の様子を赤外線で観測できると期待されるという。

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