北海道大学は,高密度な酸窒化物セラミックス焼結体の作製に成功するとともに,強誘電性を示すことを世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
スマートフォンや携帯電話をはじめとする多種類の電子機器には,誘電体としてジルコニウム・チタン酸鉛PZTセラミックスが無数に使われている。その製造には600トンの鉛が使われるが,使用後に放置すると鉛が溶出してしまい,健康被害が懸念されている。PZTに替わる非鉛強誘電体の候補として酸窒化物ペロブスカイトが注目され始めている。
セラミックスとして焼き固める焼結では,圧粉体を1000℃以上の高温で焼成する。酸窒化物ペロブスカイトは1000℃付近で窒素の一部分を放出し,導電化して誘電性を失う。そこで高温を必要としない薄膜合成と物性評価や,粉体の中性子回折法による誘電性の発現機構に関する研究が行なわ れてきた。
今回,新たな焼結及びポストアニール手法の開発に加えて,圧電応答顕微鏡による焼結体表面の観察を通して,酸窒化物ペロブスカイトの焼結体セラミックスに強誘電性が発現することを見出した。
加圧窒素雰囲気中,1450℃で3時間焼結して得たセラミックス(相対密度95%以上)を,アンモニア気流中950℃で20時間ポストアニールした。ポストアニールにより定比組成を回復した表面層に±10Vの電圧パターンを印加して分極処理すると,分極パターンに相当する表面層の凹凸が圧電応答顕微鏡で観察され,薄膜では不均一であった応答が試料全面で見られ,試料全体が強誘電体化したことが確認された。
この圧電応答の大きさ及び微小な電極を形成しての印加電圧に対して生じる電荷の大きさから,酸窒化物ペロブスカイトSrTaO2Nは数千の大きな誘電率をもつと期待されるという。
酸化物において広く使われている強誘電―常誘電相間での相転移温度において見られる大きな誘電率に比べて,酸窒化物の強誘電性では温度変化が小さくて温度による容量変化が少なく,かつ大容量であり使いやすいとしている。
SrやTaの元素置換や,合成プロセスを改良することによって,厚さ数マイクロメータの酸化物誘電体薄層を積み重ねた既存の積層セラミックキャパシタを遥かに凌駕した電子セラミックスとなり,既存の温度補償用やフィルタ回路に使われている低誘電率系,及び平滑回路やカップリング回路に使われている高誘電率系キャパシタを高機能化するのみならず,リチウムイオン電池よりも安全性が遥かに高い新しい蓄電デバイスや高温部位でも使える車載用キャパシタなどの新たな用途も期待できるとしている。
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