海洋研究開発機構(JAMSTEC)は,JAMSTECの海洋地球研究船「みらい」の北極航海において,エアロゾル粒子成分の一つであるブラックカーボン(BC)粒子濃度の北極海での船上直接観測を世界に先駆けて実施し,高精度測定に成功した(ニュースリリース)。
これまで,北極海上では大気観測のための十分なプラットフォームが整備されていないことから,主に航空機を用いてBC測定が実施されてきた。しかしながら航空機観測では短時間(数秒~数分間)の瞬間的なデータしか得られないため,観測データの普遍性,連続性を検証することが難しく,北極海上での気候影響評価を理解するためのデータが乏しい状況だった。
そこで,研究グループでは,船舶を用いた世界初の北極域での洋上定点観測を実施することにより,0.01ng/m3(1立方メートルあたり0.01ナノグラム)という非常に低い濃度での高精度測定に成功した。
船上では高精度にBC粒子の計測を行なうため,BC粒子測定装置(SP2:Single particle soot photometer)を研究船の最上階の部屋に設置し,屋外から大気を装置に連続導入し,観測を実施した。
BC粒子測定装置は,装置の内部に共振されたレーザー光があり,装置内に侵入してきた粒子のレーザー散乱光強度から粒子全体のサイズを推定し,BCが存在する場合はレーザー光により高温に加熱されたBCが発する白熱光強度を検出し,その質量・サイズを推定する。
BC粒子測定装置はエアロゾル粒子を1粒子ごとに検出するため,0.01ng/m3という非常に低いBC濃度の計測質量情報を得られるほか,粒子のサイズ,混合状態に関する情報を取得することが可能。取得したデータのうち,「みらい」自身の排煙の影響を取り除き解析を行なった。
その結果,夏季から秋季における北極海上のBC濃度が0.01~20ng/m3と幅広い範囲で変動すること,さらに,これまで報告例の少ない「他の物質と表面で付着した状態」で存在しているBCが他の海域に比べ多く存在していることが明らかとなり,北極域におけるBCの太陽光吸収や大気からの除去過程に関する重要な知見を得た。
この観測は,北極海上において船舶を用いたBC濃度計測を報告した世界で初めての研究。今後,観測データを蓄積していくとともに大気化学輸送モデルを用いた予測研究を実施し,北極海上のBC粒子の動態解明を通じて,全球におけるBCの収支・輸送過程を明らかにして行くとしている。
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