理研,コヒーレントX線の高効率利用法を提案・実証

理化学研究所(理研)の研究チームは,X線の可干渉性(コヒーレンス)を利用したイメージング技術であるX線タイコグラフィで,コヒーレントX線を高効率に利用する方法を提案・実証した(ニュースリリース)。

X線タイコグラフィは高い空間分解能と感度が実現可能なX線顕微法であり,放射光施設を中心に利用法の研究が進められている。しかし,測定には高強度のコヒーレントX線が必要で,世界トップクラスのX線強度を持つSPring-8であっても,X線タイコグラフィにはコヒーレントX線の強度が小さく,高い空間分解能を有する試料像を再構成するには,X線回折強度パターンの取得に長い時間を要するという課題があった。

そこで研究チームは、完全ではなく部分的にコヒーレントなX線(部分コヒーレントX線)を使っても試料像の再構成が可能な「混合状態再構成アルゴリズム」を駆使することで,X線タイコグラフィでコヒーレントX線を最大限に利用する方法を提案した。

厚さ12nmのタンタル製テストパターンを試料として,入射X線に(ほぼ完全な)コヒーレントX線と部分コヒーレントX線を用い,X線回折強度パターンを測定した。その際,X線の照射時間は,両者において同じになるようにした。そして,実験で得られたX線回折強度パターンに位相回復計算を実行し,試料像を再構成した。

位相回復計算には,混合状態を考慮しない従来の再構成アルゴリズムと混合状態再構成アルゴリズムを用いた。従来法では,コヒーレントX線を照射した場合のみ,試料像が再構成された。

一方,混合状態再構成アルゴリズムを用いた場合,いずれのX線照射においても試料像が再構成されたが,部分コヒーレントX線を照射することで,分解能の向上が確認された。これは,部分コヒーレントX線に含まれる第1モードのコヒーレントX線の強度がコヒーレントX線に含まれる第1モードのコヒーレントX線の強度よりも大きいことを意味する。

再構成された入射X線の波動場から,試料に照射された第1モードのコヒーレントX線の光子数を比較したところ,コヒーレントX線に比べて,部分コヒーレントX線は6倍程度大きいことが判明した。すなわち,6倍程度高い効率でコヒーレントX線を使用できたとしている。

今回実証した方法を用いることで,X線タイコグラフィによる試料観察の測定効率が向上する。特に,軽元素で構成される生物試料の観察や様々な入射X線角度での測定が必要な三次元イメージングは測定に長時間を要するため,大きな効果が得られるという。今後,この手法を標準化することで放射光施設におけるX線タイコグラフィの普及を促進し,数多くの成果の創出できるとしている。

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