基生研,細胞の運命が変わる様子をライブイメージング観察

基礎生物学研究所の研究グループは,哺乳類のモデル動物であるマウスを用いて,将来胎盤を形成する栄養芽層細胞と呼ばれる細胞と,体そのものを作る多能性細胞の分化過程において,着床前の胚の細胞は栄養芽層の分化誘導因子Cdx2を高発現しても,その後,体を作る多能性細胞に分化することができることをライブイメージングにより明らかにした(ニュースリリース)。

研究グループは,哺乳類の発生過程の様子を調べるために,栄養芽層の分化誘導因子であるCdx2の発現をGFPタンパク質の蛍光として観察することのできるトランスジェニックマウスを作製し,そのマウスから採取した着床前の胚の顕微鏡観察を行なった。

その結果,予想されていたように,発生過程のごく初期の桑実胚と呼ばれる時期においては,外側の細胞のみがCdx2を高発現する様子が観察された。しかしその後の発生段階において,内側にいるにも関わらずCdx2を高発現している細胞が観察された。

こういった細胞の胚の中での振る舞いを連続的に観察するためにライブイメージング観察を行なった結果,初期の段階には外側に位置してCdx2を高発現している細胞の一部が内側へと入り込んでいく様子が観察された。

追って着床直前の発生段階まで観察を続けると,外側から内側へと移動した細胞ではCdx2の発現は徐々に抑制され,最終的には元々内側にいた細胞と協調して内部細胞塊を形成し,その後内部細胞塊から派生し,将来胚体を作るエピブラストと呼ばれる多能性の細胞集団の形成にも寄与できることが明らかとなった。

マウスの着床前胚では,ある時期になると外側の細胞は皆,Cdx2遺伝子の発現を開始するが,一部の外側から内側へと移動した細胞はCdx2の発現を抑制し,元から内側にいた細胞と協調して多能性細胞である内部細胞塊やエピブラストを形成することが明らかになった。

このような外側から内側への細胞の動きは,栄養芽層と内部細胞塊の2つの細胞種の比率の調節のために起こるのではないかと考えられるという。着床前の胚はこのように“仮”の状態で細胞を配置し,取り敢えず細胞の分化に重要な遺伝子の発現を開始しておいて,その後の配置換えに応じてそれをキャンセルしたりするという“試行錯誤”を行なっているということが,今回明らかにすることができたとしている。

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