日立ら,引張強度と耐食性に優れた合金を3Dプリント

日立製作所および東北大学は,金属用3Dプリンターを用いた,強度と耐食性に優れたハイエントロピー合金(HiPEACE)の積層造形技術を開発した(ニュースリリース)。

化学プラントや油井,ガス井掘削設備などの部品は,強い腐食性ガスにさらされる環境下で使用され,安全性を確保するために高い強度と耐食性が求められる。

日立と東北大は,引張強度や耐摩耗性および高温酸化や酸・アルカリ環境下での耐食性に優れることが報告されているハイエントロピー合金に着目し,2014年より高強度・高耐食な部品製造技術の開発を進めてきた。

ハイエントロピー合金は多種類の元素で構成されているため,鋳造時に組成ムラを生じ易く,高硬度のために加工が難しいという課題があった。そこで,金属用3Dプリンターを用いる際,製造時に高硬度の金属間化合物を網目状に析出させることにより,鋳造時に比べて引張強度を1.4倍高めることに成功した。

しかし,実用化に向けては,さらなる引張強度と耐食性の向上が求められていた。そこで日立と東北大は,金属用3Dプリンターを用いた製造工程のうち局所溶融・急冷凝固プロセスを最適化したハイエントロピー合金(HiPEACE)の積層造形技術を開発した。

3Dプリンターを用いた部品の造形は,平坦に敷き詰められた70μm程度の厚さの金属粉末に,設計図に基づいて電子ビームを照射し,必要な部分だけを溶融・凝固させて層を形成する工程を繰り返し行なう。このとき,凝固速度が速くなるほど金属間化合物が微細になって均一に分散し,引張強度や耐食性が改善される事がわかった。

そこで,電子ビームのエネルギーと照射時の走査速度に加えて,ハイエントロピー合金(HiPEACE)の粉末を完全に溶融させる前に低エネルギーの電子ビームを粉末全体に照射する予熱プロセスに着目。粉末の予熱温度を必要最低限に制御し,予熱温度と溶融温度の差を大きくすることで,凝固速度が速くなる。

その結果,高耐食性を有するマトリクス相中に数10nm程度の高硬度な金属間化合物を均一に分散させることに成功した。これにより,HiPEACEを材料として,耐食性の指標である孔食電位は,従来の手法による金属用3Dプリンターでの製造と比較して1.7倍となる0.85V vs Ag/AgClと,従来の1.2倍の引張強度である1300MPaを達成した。

今回開発した技術を適用し,複雑な形状を有する部品の試作に成功した。強度と腐食耐性が要求される化学プラントなどの設備用部品を製造する際にこの技術を用いることで,設備の長寿命化や稼働率向上に寄与するとしている。研究グループは今後,実用化に向けて,実使用環境における実証実験を進めていく。

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