東大ら,反強磁性の影響がない高温超伝導状態を観測

東京大学,上智大学,東北大学の研究グループは,高エネルギー加速器研究機構(KEK)及び広島大学との共同研究で,放射光施設Photon Factoryと広島大学放射光科学研究センター(HiSOR)を用いることによって,反強磁性の影響のない高温超伝導状態を世界で初めて観測し,その超伝導状態が従来考えられていたよりも広い電子濃度領域で,しかもより高温まで実現されていることを明らかにした(ニュースリリース)。

銅酸化物高温超伝導体では反強磁性絶縁体である母物質に電子あるいは正孔をドープすることで超伝導が発現するが,電子をドープした場合には反強磁性の影響が強く,超伝導状態でも反強磁性が共存しているものと考えられてきた。

研究では,プロテクト・アニールされた電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体(化学組成Pr1.3-xLa0.7CexCuO4(x=0.10))の示す超伝導と反強磁性の性質を調べるため,角度分解光電子分光(ARPES)測定を行なった。ARPES測定によって固体中の電子が形成するバンド構造を直接的に観測することができ,反強磁性の強さを調べることができる。

プロテクト・アニールは,試料を同じ化学組成の粉末試料で包み込んだ状態でアニールを行なう方法で,強力なアニールを施すことができる。その結果,これまでは反強磁性絶縁体であり超伝導が発現しないとされていた電子ドープ量の少ない試料でも超伝導が実現できるようになってきており,その電子状態の解明が切望されている。

アニールを施していない試料では,運動量空間の一部でバンドギャップが開き,フェルミ面が一部消失する。これは反強磁性秩序の存在による効果で,今まで全ての電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体で観測されてきた。

しかし,プロテクト・アニールを施した試料では,そのギャップが完全に消失していることがわかった。このことから,プロテクト・アニールされた試料では高温超伝導が発現するとともに,反強磁性が排除されていることがわかった。

また,ARPESで測定したフェルミ面の大きさから電子濃度を見積もると,プロテクト・アニールされた試料はどれも従来の試料と同程度あるいはそれを凌ぐ高い超伝導転移温度を持っており,電子濃度は広い範囲に分布しているということがわかった。これは,電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体では狭い電子濃度領域でしか超伝導が発現しない,という従来の認識とは全く異なる結果。

この研究により,プロテクト・アニールした試料では反強磁性の排除された,より安定した高温超伝導状態が広い電子濃度領域に渡って実現されていることがわかった。

この研究成果は従来の認識を覆し,超伝導と反強磁性の関係という,高温超伝導の物理の根幹部分について実験的・理論的な再検討を促すもので,発見以来30年以上経っても未解決の高温超伝導発現機構の解明に新しい方向から大きく貢献することが期待されるという。

今後はさらに電子ドープ量の少ない,従来は完全な反強磁性絶縁体と考えられていた試料での超伝導の研究を進め,超伝導と反強磁性の関係をより深く詳細に明らかにすることが期待されるとしいている。

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