東北大学および東京大学の研究グループは,グラフェンを超伝導にすることに成功した(ニュースリリース)。
グラフェンは,炭素原子が6角形の蜂の巣状に結合した原子1層の極薄シート状の構造を持つ。グラフェン中の電子は,ディラック・コーンと呼ばれる特殊な電子状態(運動量とエネルギーの関係)を形成し,その結果“質量ゼロ”の状態を取ることが知られている。
このため,グラフェン中の電子は非常に速い速度で移動することができ,半導体のシリコン中に比べ200倍以上速いことが分かっている。また,原子1層程度の厚さしかないということから,高い光透過性も持つ。
これらの性質を利用して,現在,グラフェンを用いた高速電子デバイスや大面積ディスプレイなど,様々な応用が進められている。しかし,究極の高い電気伝導性である超伝導がグラフェンで発現するのかどうかは実験的検証が不完全で未解決のままだった。
グラフェンにおける超伝導発現の真偽を明らかにするためには,積層数を1枚ずつ精度良く制御した純正なグラフェンを用いて,超伝導の直接的証拠である“電気抵抗ゼロ”を確認する事が望まれていた。
今回研究グループは,シリコンカーバイド(SiC)単結晶上にグラフェンを1枚ずつ制御して作製する方法を開発した。この方法を用いて,炭素原子2層からなるグラフェン薄膜を作製し,その層間にカルシウム(Ca)原子を挿入したサンドイッチ状の2層グラフェン層間化合物(C6CaC6)を作製した。
その電気抵抗をマイクロ4指針電気伝導測定法を用いて測定した結果,温度4K(-269℃)で超伝導が発現している事を世界で初めて観測した。また,層間に何も挿入していない純正2層グラフェンや,カルシウムの代わりにリチウム(Li)を挿入したリチウム層間化合物(C6LiC6)では超伝導が発現しないことも見出し,超伝導がカルシウム原子 からグラフェン層への電子供給により引き起こされていることを見出した。
今回のグラフェンの超伝導化の成功は,グラフェンの基礎・応用にわたる広い研究・技術分野に大きなインパクトを与えるもの。基礎研究としては,“質量ゼロ”のディラック電子が“抵抗ゼロ”の超伝導となった時に,どのような特異な現象が起きるのか未だよく分かっていない。今後,今回の成果に基づいた超伝導グラフェンの物理的特性の解明や,その理論的研究が急速に進むものと考えられるという。
また,今回観測したカルシウム層間化合物での超伝導転移温度は4Kとまだまだ低温であり,今後,カルシウム以外の金属原子や2種以上の金属との化合物の作成,さらにグラフェン積層枚数を変化させるなどして,超伝導転移温度の上昇を目指す研究が進むと考えられるという。一方,応用の立場からは,超伝導グラフェンを集積演算回路に用いた量子コンピュータへの応用など,超高速超伝導ナノ電子デバイスの開発へ大きく道を開くものだとしている。
関連記事「新潟大,ラマン分光でグラフェンの積層数を決定」「東大,グラフェンでバレー流の生成・検出に成功」「産総研ら,グラフェン+紫外光でTHz発振を予測」