JST戦略的創造研究推進事業の一環として,東京大学の研究グループは,世界で初めて,曲げても性質が変化しないフレキシブル圧力センサーの作製に成功した(ニュースリリース)。
実際に,この圧力センサーのシートを折り曲げていくと,曲げた部分が80㎛(髪の毛の倍程度の寸法)の曲率半径になっても,圧力センサーとしての性質が変化しないことが確かめられた。これは,フレキシブル圧力センサーとして世界最高感度を示す。
このセンサーは,圧力の変化を抵抗の変化として読み出すが,圧力を0から70パスカル(Pa)まで増加させると,抵抗が100分の1まで小さくなる。また,600パスカルまで増加させると,抵抗値が6桁以上小さくなりる。さらに,3,000回以上,圧力を繰り返し加えても性質が変化しなかった。
開発の決め手は,圧力を感知する素材にナノファイバーを使って,センサーの厚みを2㎛まで薄くすることに成功したこと。センサーを製造する高分子基材の厚みは1.4㎛で,基材を含む全体の厚みは3.4㎛。
ナノファイバーは,エレクトロスピニング法によって形成され,直径は300から700㎚。ナノファイバー同士が,繊維のように絡み合う構造を形成し,薄くて軽量な多孔性の素材を実現した。
ナノファイバーは,フッ素系エラストマーの中に,カーボンナノチューブとグラフェンを添加して作製される。カーボンナノチューブとグラフェンの添加量を調整することによって,圧力をかけていないときにはナノファイバーが高抵抗で,わずかの圧力を加えると低抵抗になるようにしている。
ナノファイバーを使ったセンサーは,薄く,かつ,たくさんの穴があいた構造であるため透明で,貼り付けても目立たない。また,重量は50ミリグラム/平方メートルしかない。さらに,応答速度は,圧力をかけた時に20ミリ秒,圧力をなくしたときには5ミリ秒だった。
研究グループは,さらに,多点計測できるフレキシブル圧力センサー(多点センサー)を作製した。このセンサーは,12×12の格子状に圧力センサーを並べたもので,全体で144点の圧力を計測できる。全体の厚みは8㎛。
この多点センサーは,有機トランジスターの集積回路を使って,アクティブマトリックス方式で圧力の分布を計測する。膨らませた風船の表面に多点センサーシートを乗せて,2本の指で風船を押しつぶしたところ,風船は大きく変形したが,多点センサーはこの変形によるひずみの影響を受けずに,指で圧力をかけたところだけ正確に圧力の分布を計測することに成功した。
曲げても性質が変化しないフレキシブル圧力センサーを実現できたことで,風船だけでなくゴム手袋のように柔らかい曲面上でも非常に高精度な圧力の計測ができるようになる。例えば,圧力を正確に検出できるゴム手袋を用いると,これまで感覚に頼っていた乳がんのしこりの触診をセンサーで定量化するデジタル触診など,ヘルスケア,医療,福祉,スポーツなど多方面への応用が期待されるとしている。
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