産総研,最高水準の耐環境ゴムを開発

NEDOプロジェクトにおいて,単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)と産業技術総合研究所は,ゴム材料に単層カーボンナノチューブ(CNT)を加えることで,世界最高水準の耐熱性,耐熱水性,耐酸・耐アルカリ性などの耐環境特性を持つゴム材料を開発した(ニュースリリース)。

フッ素ゴムやポリウレタンなどのエラストマー材料は,ゴム弾性という特徴を有し,ガスや液体のバリア性に優れ,様々な形状への成形が容易であることから,シーリング材料として特に優れる。しかし熱,熱水,酸・アルカリなどの環境下では劣化するという弱点があった。

今回,産総研が開発したスーパーグロース法で得られる単層CNT(SGCNT)とエラストマー材料の複合化研究において,高度なネットワーク構造を保ちながらSGCNTをエラストマー材料中に超高分散させる技術を開発した。これにより,エラストマー材料の耐熱性,耐熱水性,耐酸・耐アルカリ性などの耐環境特性が大きく向上した。

SGCNTを種々の工程により分散し,フッ素ゴムと有機溶媒中で混合,最後に有機溶媒を除去することによりSGCNT/ゴムマスターバッチを作製した。長いポリマー分子同士の連結(架橋)が必要なゴムに関しては,二本ロールでこのSGCNT/ゴムマスターバッチを混練りしながら架橋開始剤,架橋剤などを加え複合材料を作製した。

耐熱性試験として高温下における24時間後の貯蔵弾性率変化の測定を行なったところ,SGCNT未添加のフッ素ゴムでは200℃以上で貯蔵弾性率の低下が始まり,280℃では24時間で80%低下した。一方,SGCNTを1wt%加えたフッ素ゴムでは,貯蔵弾性率の低下はほとんど起こらず,劣化が抑制されていた。

280℃,6.3MPaの水蒸気中で3時間保持した際の形態変化と物性変化を測定する熱水環境試験では,フッ素ゴム単体や市販の耐熱ゴムでは,表面凹凸の増加,硬化などの形態変化が観察されるとともに,試験前に比べて引張強度や硬度(IRHD)といった物性も低下した。一方,SGCNTを添加したフッ素ゴムでは形態変化は確認されず,物性にもほとんど変化がなく,耐熱水性が大幅に向上していることが確認された。

耐酸・耐アルカリ性については,ポリウレタンにSGCNTを5wt%添加した材料と添加しなかった材料で酸とアルカリに対する耐性比較を行なった。SGCNTを添加しなかった材料は劣化したものの,SGCNTを添加した材料では,引張試験に耐えうる強度を保っており,SGCNTを添加することによって加水分解による材料劣化を抑制できることが示された。

市販フッ素ゴムの中でも耐熱性の高いパーフロロエラストマーは,80万円~100万円/kgと高価だったが,今回開発した材料は,1万円/kg程度と比較的安価なフッ素ゴムを基材に用いてパーフロロエラストマーに匹敵する耐熱性を実現できており,コスト面で新たな展開が見込まれるという。また,基材のフッ素化度を低く抑えることができるために柔らかさを保持しており,材料混練りや成形の容易さの面でも利点があるとしている。

今回のかいはつにより,今後,石油掘削装置などのシーリング,自動車などの金属ガスケット代替,化学プラントの高温部シールへの適用や,燃料輸送への適用など,ゴム材料の適用範囲の飛躍的な拡大が期待される。

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