東大ら,片側からのみ透明な物質を発見

東京大学と東北大学は共同で,メタホウ酸銅という青色の結晶が,ある向きに進む赤外光に対して透明なのに対して,逆向きに進む同じ波長の光に対して不透明であることを発見した(ニュースリリース)。

通常,物質の中を進むある波長の光は,光の進む向きを反転させても同じ割合だけ吸収される。しかし,近年この一対の光の吸収に差が生じる場合があることが分かってきた。これを方向二色性と呼びぶ。

これまで発見された最大の方向二色性はメタホウ酸銅中のものであり,一対の光の吸収の強さの比は最大で3倍だった。この値が無限大となれば,一方向に進む光にとっては透明なのに,逆向きに進む光にとっては吸収体となる場合が実現することを意味する。

研究グループは,メタホウ酸銅の中を進む光の吸収が,温度,磁場,光の伝搬方向にどのように依存するかを定式化した。磁場を与えることによる光吸収の変化を実測し,物質パラメータを決定した。

その上で,光が電気と磁気の波であることを考慮して,電気が原因となる光の吸収と磁気が原因となる光の吸収が足し合わせられたり打ち消しあったりする効果に目を向けた。

その結果,非常に強い磁場のもとでは一方向透明現象が生じてもよいことが理論的に予測された。ただし,一方向透明現象を可能にすると期待される磁場の値は50テスラを超えており,通常の方法では作ることができない。

そこで,メタホウ酸銅を摂氏マイナス269度に冷却したうえで一瞬だけ強い磁場を作用させて,光の吸収を測定した。その結果,波長が879nmの赤外線がメタホウ酸銅の結晶のある方向に進むとき,53テスラ磁場のもとで吸収がなくなることを発見した。

一方で,光の進行方向を逆転させると,同じ879nmの光を強く吸収することがわかった。すなわち,光の一方向透明現象が実現できたことを意味する。

発見された一方向透明現象は,低温強磁場下という極端な条件下で生じることから,このまま応用にはつながらない。しかし,一方向透明現象の原理が明らかになったことで,今後の研究の進展によって,より使いやすい条件での一方向透明現象の実現が期待されるとしている。

一方向透明現象は,その物質で作ったフィルターで区切られたある側からもう一方側には光が透過するが,逆向きには光が透過しないといった特殊な光学素子として,光通信,光コンピューター,マジックミラーに変わる特殊な窓材などへの応用が期待される。

関連記事「東工大ら,新たな透明マントの概念を提案」「旭硝子,透明度を高めたガラススクリーンを発売」「産総研、透明時の可視光透過率が70%以上の調光ミラーを開発