東北大学の研究グループは,グラフェンを超える電子デバイスへの応用が期待されているチタン・セレン(TiSe2)原子層超薄膜の作製に成功した(ニュースリリース)。
さらに,1層のTiSe2超薄膜の電子状態を詳細に調べた結果,その特異な金属状態を生み出している原因は,薄膜中の電子と正孔(電子の抜けた孔)が結合して対(ペア)を作っているためであることを見出した。この成果は,グラフェンを超える原子層超薄膜物質の物質設計と開拓に大きく貢献するものだという。
TiSe2は,チタン(Ti)とセレン(Se)が結合した層状物質で,グラフェンと類似した六角形の結晶構造を持っている。近年,これらの層状物質を極限まで薄くした原子層超 薄膜で,グラフェンを超える新機能を発現させる取り組みが精力的に行なわれている。
何層にも積層した3次元的なバルクのTiSe2は,電子と正孔がそれぞれ独立して運動する半金属であると理論的には理解されているが,実験的には,-70℃付近で半導体から金属へ変化するという特異な性質を示す事が分かっている。
一方で,原子層を1枚だけ抜き出したTiSe2原子層超薄膜(厚さ0.65㎚)がどのような特性を示すかは未解明なままだった。グラファイトと同様な結晶構造を持つTiSe2を原子層まで薄くすることで,グラファイト(多層)からグラフェン(単層)への変化で見出されたような特異な性質(例えば,超高速電子)が発現する事も期待されるため,高品質なTiSe2原子層超薄膜の作製と,その性質の解明が期待されていた。
今回,東北大学の研究グループは,分子線エピタキシー法を用いて,グラフェン薄膜上に原子層レベルで精密に制御された高品質な単原子層TiSe2超薄膜を作成することに成功し,その電子状態を角度分解光電子分光を用いて精密に調べた。
その結果,TiSe2原子層超薄膜は室温では半金属ではなくバンドギャップをもつ半導体で,薄膜中では電子と正孔がそれぞれ独立に運動している一方,低温では,電子と正孔が相互作用して励起子と呼ばれる強固な対(ペア)を作り,結晶中で新しい電荷の秩序(電荷密度波)を形成して特異な金属状態を出現させていることを見出した。
この研究は,ポストグラフェン物質として近年大きな注目を集めているTiSe2原子層超薄膜の作製と,その特異な電子物性の起源となる電子状態を研究したもの。その結果,TiSe2における特異物性は,電子と正孔が結合して励起子を形成することによって生じることを見出した。
今後,この単原子層TiSe2に対して,電子および正孔の数を調節・制御する方法を確立し,半導体デバイス構築へ向けた材料設計を進めることが期待されるという。また一方で,励起子によって出現した電荷密度波を利用したメモリーデバイスなどへの応用展開も急速に進むものと考えられるとしている。
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