京大,安定なペロブスカイト太陽電池の設計指針を発見

JST戦略的創造研究推進事業において,京都大学の研究グループは,エネルギー変換効率19%以上の高効率ペロブスカイト太陽電池を用いて発電メカニズムを解析し,電流が発生する効率はほぼ100%であり,電圧も理論限界にまで向上可能なことを明らかにした(ニュースリリース)。

ペロブスカイト太陽電池は,エネルギー変換効率は20%を超えるものが報告されるようになったものの,製膜条件により発電特性にばらつきが見られたり,電圧掃引方向によって異なる発電特性を示す(ヒステリシス)という現象が見られるなど,再現性が悪く,発電機構の定量的な研究を系統的に行なうことはできなかった。

ばらつきの主な原因は,無機結晶材料を溶液からの塗布プロセスにより急速に製膜するため,緻密で平滑なペロブスカイト結晶の膜を再現良く作製するのが難しいという点にある。そこで,緻密で平滑な結晶膜を作る研究が進み,比較的品質の良い結晶を得る手法が報告されている。新しい製膜法の開発により,15%程度の変換効率が再現良く報告されるようになった。

ペロブスカイト太陽電池では,結晶の質やサイズ(粒径)と発電特性との関係についての定量的な研究は,再現性やヒステリシスの問題からこれまでほとんどなされていなかった。研究では,ペロブスカイトをスピンコート法により製膜する際に,クロロベンゼン溶液をスピンコート中に滴下するFDC法により比較的緻密で平滑なペロブスカイト膜を製膜し,効率が高く再現性の良い素子を作製した。

また,発電層を構成するペロブスカイト結晶の粒径によって発電特性がどのように変化するのかを検討するため,負極としてTiO2緻密膜を用いたペロブスカイト太陽電池を採用した。TiO2多孔膜ではなく,TiO2緻密膜を採用し,素子構造を最適化することで,高効率化とヒステリシスの抑制に成功した。

このペロブスカイト膜を使用した研究成果により,ペロブスカイト太陽電池の短絡電流密度(JSC),開放電圧(VOC)に対するペロブスカイトの粒径依存性を,定量的に解析することが可能となった。

その結果,電流が発生する効率は,粒径によらずほぼ100%であり電圧については粒径が大きなものほどトラップを介した再結合が抑制されることで増加するが,依然としてトラップの存在がロス過程となっていることが分かった。

今回の解析結果を基に,これまでに報告されている中で最もトラップ密度の低い単結晶ペロブスカイトレベルにまでトラップ密度を下げることができたと想定した時のVOCを予測すると,ほぼ理論限界値にまで向上しうることが分かった。

今回の予測は,架空のパラメータによる予測値とは異なり,実際の実験値に基づくものなので実現可能なものといえるという。単結晶ペロブスカイトでは,今回考慮したトラップを介した再結合以外の新たなロス機構が関与する可能性もあるが,一つ一つ解決していくことで,シリコン太陽電池に迫るエネルギー変換効率25%のペロブスカイト太陽電池の実現が期待されるとしている。

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