東京大学と国立天文台の研究グループは,アルマ望遠鏡のデータベースを用いて,非常に希薄な分子ガスの存在を示す「分子吸収線系」を新たに発見し,銀河系の星間ガスの化学組成やおかれている環境を明らかにした(ニュースリリース)。
宇宙空間に存在する星間ガスの中には,非常に希薄なためそれ自身が発する光(分子輝線)を直接観測するのは困難なものがある。星間ガスは未知の部分が多いながらも銀河系内でも相当な量存在するとされている。
こうした希薄な分子ガスの性質を探る上では,遠方の明るい電波源を背景光として,手前側の分子ガスによる吸収線を影絵のように捉えるという手法(分子吸収線系)が有効だが,こうした例は数十天体しか知られていない。
アルマ望遠鏡での観測時において目標天体の“位置合わせ”に用いられる基準光源のデータを調査することで,新たな分子吸収線系の発見を試みた。
その結果,3つの新たな分子吸収線系の発見に成功し,計4天体の方向で多様な分子の吸収線を検出した。さらに2天体の方向では,非常に珍しいホルミルラジカル(HCO)を検出し,従来知られていた中で最も希薄な星間分子ガスを捉えたとともに,その希薄なガスが大質量星などからの紫外線にさらされた環境にあることを明らかにした。
過去にアルマ望遠鏡で観測された1000以上もの基準光源のデータは全世界に公開されており,研究グループではこうしたデータを調査することで,今後新たな分子吸収線系が発見され,希薄な星間ガスの物理・化学的性質が解明されることが期待されるとしている。
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