野村総合研究所は,2021年度までのICT(情報通信技術)の主要5市場(デバイス/ネットワーク/プラットフォーム/コンテンツ配信/ソリューション)について,国内と一部世界における動向分析と市場規模の予測を行ない「ITナビゲーター2016年度版」(東洋経済新報社)としてまとめると共に,概要についてプレス発表を行なった。
それによると,ICT・メディア市場は,その多くの市場分野が成熟期あるいは衰退期を迎えている一方で,(1)スマートフォン等のスマートデバイスを活用したビジネスの急速な立ち上がり,(2)EC(電子商取引)やインターネット広告,コンテンツ配信市場のさらなる成長,(3)ウェアラブル端末や3Dプリンターの普及,(4)M2M(Machine to Machine)/IoT(Internet of Things)による新たな市場の形成など,新時代に向けた構造変化も起きているとしている。
同社はこれを,ネット(インターネット)とリアル(現実)の境界線がサービスを通じて曖昧化していく「ネット・リアル融合時代」と捉え,東京オリンピック開催後の2021年に向けてどのように変化していくかを分析した。ここではそのうち,光技術に関連したデバイス/サービス市場について紹介する。
■世界の携帯電話端末販売台数の推移と予測
これまでデバイス市場をけん引してきたスマートフォンおよびタブレット端末は,普及率の上昇,新興国向け販売比率の拡大などにより,市場成長率は鈍化し価格は下落傾向にある。また,スマートフォンの大型化によるタブレットとのシェアの食い合いも起きている。
世界の携帯電話端末(スマートフォンを含む)の販売台数はアジア地域を中心に拡大しており,2014年度の19億8,700万台から2021年度は22億5,000万台へとゆるやかな成長を予測する。タブレット端末の販売台数は,世界では2014年の約2.6億台から2021年には約3.6億台へ,国内では2014年の約1,000万台から2021年は約1,400万台になると予測する。
■産業用イメージングデバイス市場の推移と予測
産業用イメージングデバイスは,安心・安全,業務効率化,コスト低減などの観点から今後も成長を予測する。特に監視カメラ市場は犯罪やテロ対策として先進国・新興国を問わず設置が進み,金額ベースで年平均成長率16%,2021年に2.4兆円の市場を見込む。
またマシンビジョンも世界中の工場で導入が進むことから,同様の水準で成長を見込む。車載カメラはADAS(先進運転支援システム)の普及に伴う高い成長を予測。ドローン用カメラはこの中では市場規模が小さく2021年で1,000億円程度と見込むものの,ドローン市場の成長に伴う高い成長率が期待できるとしている。
産業用イメージングデバイスはカメラ単体だけではなく,付随するソフトウェアの解析性能と併せた提案が求められる。そのため,M&Aなどの事例が出てきているほか,IoTとも結びつきが強い分野であるため合従連衡も始まっており,業界の構造変化が起きることも予想されるとしている。
■ウェアラブル端末市場
ウェアラブル端末市場はその注目度もあって伸長しているが,用途が限定されていることから利用意向は低迷している。そのため,「ヒトとモノ・情報がつながること」を活かす必要があり,そのためにはハード,ソフト,コンテンツの最適化,およびつなぐ先の企業との連携が重要であるとして,ヘッドマウントディスプレイ,アクティビティトラッカー,スマートウォッチを合わせた2021年の台数ベースは490万台を予想した。
■次世代テレビ市場
次世代テレビ市場として4Kテレビの保有世帯予測を行なった。テレビの買い替え需要や4Kの選択意向によって2021年度には約2,000万世帯の普及を予想する。しかし,伝送路や受信環境について議論が進む中,コンテンツについては展望が描けておらず,地上波民間放送局(民放)の取り組みがカギになるとしている。
■3Dプリンター市場
出力速度や表面粗さの改善,電子回路を樹脂に実装して出力する技術などが登場している。また,航空業界などで最終製品を3Dプリンターで出力する事例もあることから,今後も活用が進み,市場は2014年の41億ドルから2021年には264.8億ドルに伸長すると予想する。
■固定ブロードバンド回線市場
国内固定ブロードバンド回線の加入件数は,2014年度は約3,370万件,2021年度は3,620万件とわずかに増加するとしている。スマートフォンの普及によりその伸びが鈍化したと思われている固定ブロードバンド回線市場だが,逆に家庭内で使用するときはWi-Fiなど,携帯電話回線以外の回線に乗り換える,「データオフロード」のニーズは続いている。さらにテレビのネット接続機能なども成長を後押ししている。
また,加入件数の中心となる光回線は,市場の約7割のシェアを保有するNTTが「サービス卸(光ファイバー回線を他企業が自社のサービスとセットで提供できるようになる回線の卸売りサービス)」の提供を開始したことにより,今後,通信事業者に限らず,多種多様なプレーヤーが通信サービスに参入することで,市場全体が活性化することが予測されるという。