東北大学は,TPR工業,および電気機器メーカー1社と共同で,黒鉛に匹敵する高い化学薬品耐性,高導電性に加えて,大比表面積を併せ持つオープ ンセル型ポーラス炭素の開発に成功した(ニュースリリース)。
蓄発電デバイスには,炭素材料が電極や集電体などの部材として用いられている。カーボンブラック,活性炭,黒鉛(グラファイト)などの代表的な実用炭素材料は,いずれも比表面積や導電性,化学的安定性の面で一長一短の性質を持つため,これらを全て満足する炭素材料,つまり,“比表面積の大きい高結晶性炭素”,特に,比表面積の拡大と接点抵抗の低減を同時に達成することが出来る高結晶性オープンセル型ポーラス炭素の量産的製造法の開発が渇望されてきた。
従来,オープンセル型ポーラス金属は,酸・アルカリ水溶液中における合金からの脱成分反応と,これに伴う非可溶残存成分によるポーラス構造の自己組織形成を利用して作製されている。最近,酸・アルカリ水溶液の代わりに,金属溶湯を用いた新しい方法により,これまで困難であった数々の卑金属のオープンセル型ナノポーラス体の製造に成功しているが,炭素への応用はまだなかった
炭素は,マンガンとは合金化して混和しやすい一方で,ビスマスとは合金化せず混ざりにくい。これらの性質を用いて,炭素とマンガンから成る合金(炭素マンガン合金)を800℃のビスマス溶湯に浸漬して,マンガン成分のみをビスマス溶湯内に選択的に溶出させる脱成分処理を施した。得られた試料は硝酸水溶液中に浸漬し,炭素以外の成分(主にビスマス)をイオン化して除去する。
これにろ過・純水洗 浄・乾燥を施すことによってポーラス炭素粉末を回収した。 得られたポーラス炭素は,800℃という炭素材料作製プロセスとしては低温であるにも拘わらず,高い黒鉛化度を有することが確認された。さらに3nm近傍をピークとするメソ気孔分布と,30nm近傍をピークとするメソ・マクロ気孔分布からなるポーラス構造を有することが分かり,電気化学的反応に必要不可欠なガスや液体等の物質輸送性に優れることが期待されるという。
更なる結晶性の改善のため,作製した高結晶性オープンセル型ポーラス炭素に複数の高温条件で2時間の黒鉛化処理を施したところ,黒鉛化処理温度の上昇と共に,黒鉛化度の更なる向上が確認された。しかし,全気孔体積および比表面積の減少は小さく,脱成分後と同等の大きな比表面積を維持することが分かった。
また,開発した高結晶性オープンセル型ポーラス炭素と,その他実用炭素材料(アセチレンブラック:AB,黒鉛)の体積抵抗率と密度との関係を比較すると,いずれの材料も密度の上昇によって, 体積抵抗率は減少するが,高結晶性オープンセル型ポーラス炭素は,ABよりも体積抵抗率が低くなることが明らかになった。さらに,黒鉛化処理を施せば,天然黒鉛と同等の体積抵抗率に低減することに成功した。
開発した高結晶性オープンセル型ポーラス炭素は,トップダウン的製造法によって大量生産が可能。黒鉛に匹敵する高い導電性と高い化学的安定性,そして大比表面積を併せ持ち,かつ,物質輸送性にも優れるため,電気二重層キャパシタ,リチウムイオン蓄 電池,燃料電池等の実用エネルギーデバイスの更なる高性能化はもちろんのこと,空気電 池や全固体電池など次世代型エネルギーデバイスの開発促進にも大きく貢献するだろうとしている。
研究グループでは高結晶性オープンセル型ポーラス炭素の黒鉛化処理と賦活処理を効率的に組み合わせて, 更なる黒鉛化度,比表面積の改善を目指し,エネルギーデバイスの性能向上と開発促進に繋げたいとしている。また,Bi-Mn精錬工程を検討し,製造コストの低減を図る。
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