文部科学省 革新的エネルギー研究開発拠点形成事業(JST受託事業)において,JSTの研究チームは,標準的な50cm径の石英ルツボから,40cm径以上の高品質なシリコンインゴット単結晶を作製することに,世界で初めて成功した (ニュースリリース) 。
現在使用されている太陽電池の大半はシリコン結晶から作製されている。高品質なシリコン結晶作製法としては,現在はチョクラルスキー(CZ)法が主流。この方法を使うと,60cm径の石英ルツボを用いておよそ22cm径のシリコン結晶ができ,1枚のスライスからレギュラーサイズ(15.6cm×15.6cm)のシリコンウェハが1枚製造できる。
もし45cm径の結晶にスケールアップできれば,1枚のスライスからウェハを4枚作ることができ,製造の低コスト化が期待できるが,CZ法では作製したいシリコン結晶に比べて大きな石英ルツボが必要であるため,低コストでのスケールアップが難しい。
これに対して,Noncontact crucible(NOC)法という新しい手法では,原理的にCZ法と同等の品質を確保しながら,CZ法に比べ4倍以上の面積の結晶が得られるため,スケールアップ時の石英ルツボのコスト上昇を抑えることができる。しかしNOC法は温度管理が難しく,30cm径を超えるシリコン結晶の作製は実現していなかった。
研究チームらは,今までNOC法の主流であった3つのヒーターによる加熱から,2つのヒーターによる加熱への切り替えを試みた。2ヒーター加熱は装置が単純化できるため,CZ法など他の手法では一般的に採用されている。しかしNOCとき法での2ヒーター加熱は,温度管理がさらに難しくなるため,適用例は今までなかった。
研究チームは3つのヒーターのうちの1つを,カーボン製保熱材に置き換えた。するとルツボ内のシリコン融液温度が均一化し,結晶成長に重要な低温領域が,3ヒーター加熱の場合以上に拡大することがわかった。これはカーボン製保熱材が,ルツボ壁の高温を保持して壁からの結晶析出を防止しつつ,ルツボ内のシリコン融液への熱エネルギー供給を可能にすることによってもたらされたためと考えられるという。
今回この手法を用いて,50cm径の石英ルツボから,最大直径が45cm(直径比で90%)のシリコンインゴット単結晶を作製した。この方法を用いて作製したインゴット単結晶の品質はほぼCZ法と同等で,高い変換効率( 最高値19.6%,平均値18.9%) の太陽電池を高い歩留まりで実現できることが判明したという。
作製したインゴットは現状でも実用化に十分な品質だが,現状,シリコン結晶内に転位が,102~104/cm2オーダーで存在しているという。無転位化技術は他のシリコン結晶作製法ですでに確立されており,応用によりライフタイムは10ミリ秒程度に引き上げることが可能になるほか,作製コストは3割程度の削減が見込まれるという。
この手法で作製できるシリコン結晶サイズの限界は原理的に無く,さらなるスケールアップと低コスト化も可能。これにより,最高レベルの変換効率を持つシリコン太陽電池に適用できる高品質のシリコン結晶が,低コストで供給可能になるとしている。
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