九大,有害物質を有用物質に変換するバイオ光触媒を開発

九州大学の研究グループは有害特定化学物質を,化学工業品として有用なエステルやアミド化合物に,光エネルギーを使って変換する触媒の開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

トリクロロメチルベンゼンは,人体や環境に悪影響を与える汚染物質であり,このような環境汚染物質を低コスト,簡便,温和な条件で除去・無害化する科学技術の開発は重要な課題となっている。一方,生体内の金属酵素は,常温・常圧の温和な条件で働く触媒であり,生体内で様々な物質変換反応を担っている。

そこでこうした酵素の優れた性質を模倣し,さらにそこに新しい機能を付与することが出来れば,天然酵素の機能を凌駕する人工酵素,触媒の開発につながることが期待されており,このようなバイオインスパイアード触媒の開発が世界的に活発に行なわれている。

研究グループは,生体内で脱塩素化反応を行っているビタミンB12依存性酵素の反応中心を模倣したモデル化合物を,天然のビタミンB12を出発原料として合成し,この化合物を,光触媒として作用する酸化チタンと複合化したハイブリッド触媒を合成した。

この触媒は紫外線照射により活性化され,トリクロロメチルベンゼンや,クロロホルムなどのトリハロメタン類から塩素を取り除く脱塩素化作用を示した。さらに,空気中で作用させることで,これらトリハロメタン類から,生成物として酸素原子を取り込んだエステルやアミド化合物が一つの反応容器(フラスコ)で高収率に生成することを世界で初めて見出した。

エステルやアミド化合物は,化学工業品として重要な物質であり,環境汚染物質であるトリハロメタン類から光エネルギーを利用して簡便に合成する事に成功した今回の研究は,環境汚染物質の分解と有用物質の合成を同時に達成した一石二鳥の物質変換反応と言えるとしている。

この成果により,特定化学物質に指定されているトリクロロメチルベンゼンや,クロロホルムなどのトリハロメタン類,DDTなどの環境汚染物質を,光エネルギーを利用して無害化するだけではなく,これらを原料として,有用な化学物質を合成することが可能となる。

更にこの反応は,クリーンな光エネルギーを駆動力とし,常温,常圧の温和な条件で働く環境に優しい物質変換反応だという。

研究グループは今後,開発したハイブリッド触媒を用いて,従来,その処理が課題であった環境汚染物質を原料とし,クリーンな光エネルギー使って様々な有用化学物質の合成へと展開していく。また可視光に応答する光触媒と組み合わせることで,太陽光で動作するハイブリッド触媒の開発を目指す。

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