府大,有機分子による量子磁気ネットワークを実現

大阪府立大学の研究グループは,有機化合物の設計性を利用して新しいタイプの有機磁性体を合成し,五角形から成る量子的な磁気ネットワークを実現した(ニュースリリース)。

奇数角形の網の目から成るフラストレーション系の磁気ネットワークは,スピンの量子性を反映した新しい磁気状態を示す。

これまでに最も単純な三角形の網目を持つ場合について非常に多くの研究が行なわれてきたが,次の奇数角形である五角形の網目を持つ場合は物性科学の未踏領域だった。そこで研究グループは,有機化合物が設計性と多様性に富むことを利用して,磁性体のデザインを試みた。

具体的には,安定有機ラジカルの一種であるフェルダジルラジカルを基本骨格として,α-2,6-Cl2-V [=3-(2,6-dichlorophenyl)-1,5-diphenylverdazyl]を設計し,合成した。

2か所の水素原子を塩素原子に置き換えることで,π共役平面のねじれた分子骨格を実現した。α相結晶においては,ねじれた五角形が頂点を共有して三次元的に拡がる新しい磁気ネットワークが実現されていることが明らかになった。

そしてこの物質の磁気特性を調べると,磁化の量子化を含む特異な量子物性が観測された。この研究成果は,量子磁性体の研究に五角形のフラストレーションという新たな方向性を提唱し,新しい量子現象の解明をもたらすことが期待されるという。

また,有機化合物による磁性体のデザインが可能であることが実証され,量子物性を取り込んだ磁性材料の開発につながるものと期待され,ナノテクノロジーを駆使した革新的な材料開発が実現できるとしている。

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