名大,植物の透明化技術を開発

名古屋大学の研究グループは,植物を透明化し,複雑な内部構造を解剖することなく1細胞レベルで蛍光観察できる技術を開発した(ニュースリリース)。

植物の個々の細胞や組織の役割や体の成り立ちを明らかにするためには,蛍光タンパク質を使って,目的の細胞や構造を選択的に標識し,細胞や組織を詳細に観察する。しかし,外から観察できるのは植物器官の表面近くだけだった。

このため,植物の内部構造を観察するには,器官の解剖や組織を薄く切って切片を作製するといった,煩雑で熟練を要する操作が必要だった。さらに,組織切片などの断片的な2次元画像から,元の3次元構造を構築することは非常に困難だった。

そこで,研究グループは,植物を透明化し蛍光観察できる手法の開発を試みた。植物を蛍光観察するときに,葉緑体に存在するクロロフィルが非常に強い赤色の自家蛍光を発するため,しばしば蛍光タンパク質の観察を妨げる。

研究グループは,理化学研究所で開発された透明化解析技術「CUBIC(キュービック)」に用いられた化合物探索法を植物に応用して,植物組織からクロロフィルを取り除く,最適な化合物の組み合わせを探索した。その結果,植物を透明化する試薬「ClearSee」の開発に成功した。

これまで生体組織の内部構造を観察するためには,2光子励起顕微鏡を用いる必要があった。脳組織などでは数100㎛の深さまで観察できるが,植物ではクロロフィルの自家蛍光や組織の構造の違いから,葉の表面から30~40㎛の深さまでしか観察できない。

そこで植物を透明化するため,ホルマリン固定した後,ClearSee溶液に4日間浸した。透明化した葉では,葉を表から裏まで1枚丸ごと観察することができ,細胞核も1つ1つはっきりと識別できた。また,共焦点顕微鏡でも丸ごと観察できることが分かった。

ClearSeeを用いると,葉だけではなく,根,茎,花など,他の器官を透明化し,丸ごと観察できる。また,ClearSee溶液内で5ヶ月間保管してあったシロイヌナズナのめしべを観察したところ,蛍光タンパク質が壊れることなく,安定して蛍光観察できることが分かった。

研究グループは次に,透明化した組織を蛍光色素で染色したところ,蛍光タンパク質と同様に,葉を丸ごと観察できることが分かった。蛍光タンパク質で目的の細胞を選択的に標識するためには,蛍光タンパク質の遺伝子を植物に導入する必要がある。

このため,遺伝子組換え技術が確立されていない植物種では,蛍光タンパク質を用いることができないが,蛍光色素は生体外から与えるだけでも植物に取り込まれる。ClearSeeは蛍光色素染色と併用することが可能なため,遺伝子組換え体を作れない植物にも適用することが可能だという。

さらに,研究グループは園芸植物や作物,またコケ植物であるヒメツリガネゴケでも同様にClearSeeが効果的であることを明らかにしており,多くの植物種に適用できることが期待される。

ClearSeeは非常に簡便に植物を透明化し,1細胞レベルで植物を丸ごと蛍光観察できる技術であるため,細胞レベルの現象と個体全体をつなぐシステムの解明に貢献すると期待される。また,2光子励起顕微鏡だけではなく,共焦点顕微鏡でも丸ごと観察できることに加え,多くの植物にも適用できるため,世界中で植物科学研究が加速していくと期待されるとしている。

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