東工大,SO2の紫外吸収波長で古代地球を探る

東京工業大学は,四つすべての硫黄安定同位体を含む二酸化硫黄(SO2)の同位体分子種(32SO233SO234SO2および36SO2)の紫外吸収スペクトルを世界ではじめて決定した(ニュースリリース)。

この同位体分子種情報を用いれば,25億年以上前の堆積物に残された同位体異常を用いて,地球初期の大気化学過程を解読することができるという。

硫黄は四つの安定同位体を持ち,それぞれの存在度は32S(95.05%),33S(0.75%),34S(4.21%)および36S(0.02%)となっている。最も多い32Sに対する希少な三つの同位体比の存在比率は天然ではわずかに変化する。通常,様々な物理化学過程において33Sの濃縮度は34Sに対しておよそ半分となるという。

しかし,例外的に紫外線によるSO2分子の光化学反応はこのルールが破られることが知られており,同位体異常を生じる。無酸素大気中では,火山から供給されたSO2分子がこの硫黄の同位体異常を獲得し,その異常は各種の硫黄エアロゾルを通して海洋から堆積物中へと輸送される。

この硫黄同位体異常は25億年以上前の堆積物に限って発見されており,当時の大気が無酸素状態であったことを意味している。同位体異常を作る大気条件をさらに詳しく調べれば,初期大気の組成や、その変動について、より多くの情報が得られると期待されている。

しかし、これまでの古大気研究では主に33Sの同位体異常に焦点が当てられたものであり,存在度の最も低い36Sの同位体異常が持つ情報は十分に引き出されていなかった。

今回初めて,36SO2を含むすべてのSO2同位体分子種について,それらの紫外吸収スペクトルを決定した。この情報を使うことにより,いかなる環境因子が同位体分別のパターンを変えるのかを予測することが可能となった。

また,同位体分子種ごとのスペクトルの差は非常に小さいために高精度の分析が必要となるが,今回は計測法を改良することにより,同位体分別を解析するのに十分な高精度のスペクトルデータを取得することに成功した。

計測の結果,SO2分子の光解離が引き起こす同位体異常は,太陽光と同様のスペクトルをもつ紫外線が照射されたと仮定すると,地層に記録されている33Sおよび36Sの異常と良く一致することが明らかになった。

さらに,同位体分別のパターンは大気SO2濃度などの環境因子によって変化することが示された。従って,地層に記録された同位体異常から,当時の大気環境(潜在的にはSO2濃度,大気全圧および酸化還元状態)を復元することが可能になると期待されるという。

同位体分別を左右する大気化学的な要因がSO2分子の反応に由来することが明らかになったことで,今後はこれらの環境因子がどれだけの同位体異常を引き起こすかを実験的に明らかにすることで,地球初期大気のSO2濃度,大気全圧および酸化還元状態を定量的に推定することが可能になるとしている。

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