筑波大ら,ボール周囲の空気をレーザーで可視化

筑波大学及び山形大学の研究グループは,実験風洞とPIV(Particle Image Velocimetry)計測システムを用いて,サッカーボール表面近傍の空気の流れ(境界層)を可視化し,パネルの形が空気の流れを変えるメカニズムを検討した(ニュースリリース)。

近年,サッカーボールは,ボールパネルの形状やデザインなどが大きく変ってきている。2006年に行われたドイツワールドカップの公式球ではパネル数が14枚で構成されており,従来のサッカーボールの典型的な形である六角形パネルと五角形パネルの32枚のパネルボールから大きく変化した。

また,このボールのパネル形式は、従来の32枚(六角形と五角形)ではなく14枚という画期的な形のため,多くの話題になった。その後,2010年南アフリカワールドカップ大会では8枚のパネルで制作されたボール,2014年ブラジル大会では6枚のパネルで制作されたボールが登場し,さらにサッカーボールのパネル形状が変化した。

先行研究において研究グループは風洞実験を行ない,ボールに加わる空力特性を,パネル数およびパネルの向きに着目して比較検討した。その結果,パネルの枚数・形状・向きにより,ボールに加わる空気力(飛行する物体が空気から受ける力)が異なり,ボールの飛翔軌道に大きな影響を与えることが示唆された。しかし,サッカーボールのパネルの形が異なることによって,どのように空気の流れが変わるのかは不明だった。

研究では,2013年FIFA コンフェデレーションズカップの公式球を用いて,パネルの向きが抗力,揚力に及ぼす影響を検討すると共に,ボール縫い目の位置変化から生じる空気の流れの変化をPIVで可視化し,ボール縫い目の位置が,空気の流れを変えるメカニズムや,実際のサッカーボール飛翔軌跡への影響を明らかにした。

PIV(Particle Image Velocimetry)とは流体可視化手法の一つで,流れに多数の粒子マーカを注入し,レーザー光を照射して流体速度を計測するシステム。研究では,風洞内におけるサッカーボール周りの粒子の動き(移動)をレーザーで照らし,高速カメラで連続的に流れを可視化した。

その結果,サッカーボールの表面にある縫い目は境界層の剥離を促すものの,その位置によっては再付着が生起し,結果的に剥離点を後方へ移動させる働きがあることが明らかになった(剥離点の位置が,120 度から145 度に大きく変化した例を含む)。この剥離点の位置の変化は,ボール後方の空気の流れ(後流)の渦構造に影響を及ぼすと共に,揚力,抗力に作用し,飛翔するボールの軌道に影響を与えていることが分かった。

これらの結果を総合すると,サッカーボール表面を構成している縫い目の位置が,境界層の剥離点に大きな影響を与え,サッカーボールの飛翔軌道を決定する大きな原因の一つになっていると考えられる。今回得られた知見は,サッカーボールの飛翔特性の理解,今後のボールの研究・開発やデザインに活用できるとしている。

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