東京大学の研究グループは,可視光の照射により23ボルトの高電圧を発生する強誘電体デバイスの開発に成功した(ニュースリリース)。
強誘電体がもつ厚さ数ナノメートルの分極界面が,高電圧を発生する光電変換場であることを証明し,さらなる構造の制御により,原理的には1000ボルトを超える巨大な電圧が得られる可能性があることを明らかにした。
この研究で得られた分極界面制御による光電変換機能の増強は,酸化亜鉛や窒化ガリウムなど,他の分極性材料へも展開できるだけでなく,従来の半導体太陽電池との融合により,発電効率の向上も期待される画期的な研究成果。今後,太陽光を利用して高電圧を発生する光電変換デバイス研究の推進に拍車がかかることが期待されるとしている。
太陽電池として利用されている半導体光電変換デバイスにおいて発生できる電圧は,材料固有のバンドギャップで制約されるため,最高で数ボルト程度にとどまっている。近年,強誘電体薄膜において,材料のバンドギャップの制約を打破する高電圧の発生が可能であることが報告され,強誘電体を用いた光電変換デバイスの研究開発が活発に行なわれてきたが,その発電原理は未解明で,デバイスの設計指針も不明であるなど,様々な課題を抱えていた。
研究グループは,強誘電体の分極界面が高電圧を発生する光電変換場であるという発電原理を解明し,単結晶に可視光レーザーを照射した実証実験で,23ボルトの高電圧を発生することに成功した。加えて,分極界面が強誘電体母結晶の約8000倍もの巨大な光電変換機能をもつことも明らかにした。
単結晶を用いた実証実験では,電極の間隔が0.9 mm,分極界面の間隔が15マイクロメートルで,23ボルトの電圧を得ている。分極界面の間隔を 30ナノメートル程度まで小さくできれば,原理的には1000ボルトを超える巨大な電圧を発生することも可能であると期待される。
この研究は,発電原理を解明し,分極界面を利用した光電変換デバイス設計指針を提案した成果と位置づけられるという。一方,実証実験で使用した試料は太陽光ではほとんど発電しない。今後は太陽光をエネルギー源とした光電変換機能の研究を推進することにより,太陽光照射下で高電圧が発生可能なデバイスの開発が期待されるとしている。
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