岡山大,構造深部にある鉄鋼の磁気検査に成功

岡山大学の研究グループは,磁気計測により鉄鋼製のインフラ構造物の目に見えない内部や,裏面の腐食により厚みが薄くなった状態を非接触で迅速に検査できる装置の開発に成功した(ニュースリリース)。

研究グループは,高感度の磁気センサーと数Hz~数百Hzまでの極低周波の交流磁気を用いた磁気計測によるインフラ構造物の非破壊検査方法を研究。これまで検査できなかった鉄鋼製のインフラ構造物の内部や裏面の腐食による減肉を非接触で迅速に検査できる装置の開発に成功した。

磁気による検査は,対象物に交流磁場を照射して金属内に発生した渦電流が作りだした新たな磁場を測定するもの。研究グループが開発した方法は,従来より非常に低い周波数を用いているため,渦電流が非常に微弱なものとなるが,鉄鋼表面から深いところまで渦電流を発生させることができる。

今回,深い場所に発生した渦電流による微弱な磁場を高感度センサーで計測することで,従来不可能であった厚い鋼板の構造物を,安全かつ簡単に検査することに成功した。

現在日本では,高度成長期を経て多くのインフラの老朽化が進み,それらの安全性確保が重要な問題となっている。そのため,経年劣化を簡単に検査・診断し,予防保全できる社会作りが必要となっている。

経年劣化を診断するには,以前の状態と比較できる定量性や,随時実施できる簡便性が検査として必須となる。目視検査では,表面の状態しか分からない。対象物を壊さずに内部を検査できる非破壊検査には,X線検査や超音波検査,磁気を用いた検査がある。しかし,X線検査では取り扱いに制限があり,超音波検査では検知するプローブを対象物によく接触させる必要性から,表面の塗装や腐食物などを削りきれいな表面を作るため,時間がかかるという問題があった。

磁気を用いた検査は,金属構造物を簡単に検査でき,しかも完全な接触は必要がないという特長がある。しかし,従来は深くても数mmの表面までしか計測することができず,表面検査としてしか使用されていなかった。また,金属でも鉄鋼などの磁性体によってできた構造物の場合,磁性が大きな磁気雑音になり正確に検査することができなかった。

研究グループは,高感度の磁気センサーと極低周波の交流磁気を用いることで,鉄鋼の深部の腐食などの目に見えない欠陥を調べることに成功。従来不可能であった橋梁やダムなどの厚い鋼板の構造物,鋼板で囲まれた内部や裏面の腐食を簡便に検査する装置を開発した。

今回の研究により,鉄鋼構造物の内部の腐食などの欠陥を簡単に検査できるようになった。研究グループは今後,磁気センサーの小型化と高感度化を実施。対象物から離れていても検知でき,誰でも一目で分かる画像検査を目指すとしている。この取り組みが実現すれば,鉄鋼材料が表に表れている部分だけでなく,コンクリートやアスファルトで覆われた構造物の検査も可能になるとしている。

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