理研,らせん空孔が揃った大面積有機ゼオライトを作製

理化学研究所(理研)の研究グループは,らせん状のナノ空孔が数平方センチメートル(cm2)の大面積にわたり同一方向に並んだ,全く新しいタイプの有機ゼオライトの開発に成功した(ニュースリリース)。

近年,ゼオライトや金属有機構造体(MOF)に代表される,規則正しく並んだ空孔を持つ材料が注目を集めている。空孔のサイズ・形状・組成を適切に設計することにより,狙いの分子を空孔内に捕捉することができる多孔性材料は,分子を貯蔵・配列したり,似ていても性質が異なる分子と識別・分離したり,あるいは別の分子へと変換したりする上で極めて有用なツールとなり,実際に,ガス吸蔵材,排気ガスフィルタ,固体触媒などとして利用されている。

しかし,多孔性材料の開発では,未だに達成されていない課題が残されている。まず,空孔の向きを大面積でそろえることが極めて困難であり,空孔の向きがそろった区域は数平方μm2からせいぜい数平方cm2程度にしかならない。また,加工性や柔軟性に乏しいため,ほとんどの多孔性材料は粉末として,あるいは粉末を固めた塊として利用されている。

さらに,非対称な形状の空孔を作ることが難しく,とりわけキラリティを持つ空孔の開発は,医農薬・食品添加物・光学材料を扱う分野で待ち望まれているにも関わらず,実用に耐えるものはない。これらの課題を解決した理想的な多孔性材料が得られれば,学術・実用の両面で革新的な物質となる可能性がある。

研究チームは,結晶に準ずる規則構造を持ちながらも、重合反応や磁場配向を許容する自由度を持ち,なおかつキラリティを持たせることも容易な材料である「液晶」に着目。キラルな筒状構造の液晶を磁場で配向させた後,全体を重合反応で固めることにより,らせん状のナノ空孔が数cm2の大面積にわたって同一方向に並んだ液晶フィルムが得られた。

このフィルムにガンマ線を照射すると,カルボン酸に予め導入しておいた重合性部位が架橋重合を起こし,その結果,筒状構造の外側は化学結合によって固定され,元々はオイル状であった液晶フィルムは,熱や溶媒に対し全く溶解しないポリマーのフィルムへと変換される。その際,液晶中に形成されていた構造はそのまま固定される。

このポリマーフィルムを使うことで,強い非線形光学効果を示す材料を得ることができる。強い非線形光学効果を得るには,それに適した色素を選ぶことはもとより,色素を適切な配置で配列させることが重要となる。

今回得られたポリマーフィルムの空孔の中に,代表的な非線形光学色素であるパラニトロアニリン部位を持ったゲスト分子を包摂させ,800nmのレーザー光を照射したところ,400nmの光が出力され,顕著な2次の非線形光学効果が観察された。

詳細な検討により,今回の非線形光学効果は,らせんのキラリティに由来することが分かった。磁場をかけずに作成した参照用のフィルムで同じ実験を行なうと,400nmの出力光強度は7~10倍低下する。この結果は,全てのらせんを同一方向に配向させたために,出力光同士の干渉が劇的に抑えられたことを意味しており,大面積で配向した構造の有用性を示している。

加工性・柔軟性・配向性・キラリティと,これまでの多孔性材料に欠けていた全ての要素を兼ね備えた今回の材料は,多孔性材料の用途を大きく広げ、今後さまざまな展開を引き起こすと期待できる。

また,ある種の非線形物理現象(非線形光学効果,圧電効果など)は,分子をらせんなど非対称な形状に配置したときのみ発現することが知られている。研究グループでは,これらの現象や機能を探求する上で,高度に構造が制御された今回の多孔性材料は最適な素材を提供すると考えている。

加工性・柔軟性・配向性・キラリティと,これまでの多孔性材料に欠けていた全ての要素を兼ね備えた今回の材料は,多孔性材料の用途を大きく広げ、今後さまざまな展開を引き起こすと期待できます。

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