OIST,テラヘルツ発生における半導体表面構造の重要性を発見

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは,半導体表面の微細構造が強力なテラヘルツ波を発生させる上で重要な役割を果たしていることを示した(ニュースリリース)。

テラヘルツ波は,電波としては周波数が高すぎるため,従来の電波送信器は発生できない。逆に,光として放射させるには光エネルギーが小さすぎるため,大半のレーザーでも不可能。この問題を解決するためには,テラヘルツ波に特化した画期的な放射器が必要となっている。

既存のテラヘルツ波放射器には光伝導アンテナが多く用いられている。その構造は,2つの電気接触点の間に薄いフィルム状の半導体を設置している。半導体素材には一般的にガリウムヒ素(GaAs)が使われる。レーザーから放射される超短パルスが光伝導アンテナに触れると,光から放出される光子が半導体素材に存在する電子を励起し,強くて短いパルスのテラヘルツ波を発生する。

研究グループは,半導体表面の微細構造が強力なテラヘルツ波を発生させる上で重要な役割を果たしていることを示した。強力な超短パルスレーザーを半導体表面に照射すると,ガリウムヒ素の表面層にミクロレベルの溝や波紋が残る。これはフェムト秒レーザーアブレーション(融除)と呼ばれている技術。

材料の表面にできたこの溝は光を閉じ込めることができる。表面が粗い素材はより多くの光を捉えることができるため,ここに十分な強度のレーザー光を照射すればテラヘルツ波の放射率を65パーセントも向上させることができるという。この新しい方法を従来のテラヘルツ波放射器に適用すれば,テラヘルツ波の実用化が大きく前進することが期待できる。

フェムト秒レーザーアブレーションにより,物質の電気伝導性も変化する。表面にアブレーションを施したガリウムヒ素の電流量は,何も手を加えていない状態のわずか3分の1となる。一般的には,光電流量が多いほどテラヘルツ波の放射率も高いと考えられているが,今回の研究では,「直観に反する現象」が見られたという。

電子は外部から光子などのエネルギーを受けると励起状態になり,外部からのエネルギー放射が止むと元の状態に戻る。アブレーションを施した半導体の電流量が小さいのは,キャリア寿命が短くなるためだとしている。

フェムト秒レーザーアブレーションを用いれば,光子の吸収率を100パーセントまで引き上げたり,吸収可能な周波数帯域の幅を広げたりすることもできて,電子濃度や寿命の制御も可能になるという。これらにより,既存の方法よりも素早く低コストでテラヘルツ波の応用に向けた素材を作ることが可能になる。

研究グループでは,今回の研究成果によって,テラヘルツ波の用途が拡大されることを期待している。

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