千葉工大,天体重爆撃が金星と地球を分けたと発表

千葉工業大学は,金星表層には地球の海水量の10万分の1しか水分が存在しない理由について,天体衝突が初期金星の水分を取り除いたとする新説を発表した(ニュースリリース)。

これは,金星表層の水の行方は地球と金星がいかにして作り分けられたか。また表層に液体の水を持つハビタブルプラネットがどのように作られるかという問題と直結しており,比較惑星学の最重要問題の一つとなっていた。

地球と金星はほとんど同じ質量であり,太陽からの距離も近いために兄弟星と呼ばれている。従って形成期の金星表層には地球の海水と同程度の水があったと考えられている。

過去には金星の表層水の行方について,太陽に近い金星では海が蒸発し,水蒸気の大気をまとっていた可能性が高いことが指摘されてきた。水蒸気は若い太陽からの強い紫外線で水素と酸素に分解してしまい,軽い水素は宇宙空間に逃げてしまう。

ところが金星サイズの惑星から,地球海洋相当量の水に含まれる酸素(240気圧相当)を宇宙空間に逃すことは容易ではない。従って金星の表層水の行方は水蒸気の紫外線による分解と水素の宇宙空間への散逸の後に残された分厚い酸素大気を,いかにして消費するかという問題に帰着すると考えられてきた。

形成末期の金星には現在の1万倍以上の頻度で天体衝突が起きていたと考えられている(天体重爆撃期と呼ばれる)。この時期は太陽の紫外線が強く,水蒸気大気の光化学分解が進行する時期と重なる。

天体衝突は金星の地殻・マントルを粉砕・掘削して,岩石塵を高温の初期金星大気中に放出する。岩石塵と高温の酸素大気が反応すると岩石が酸化されることによって,大気からは酸素が取り除かれる。従って天体衝突は正味として惑星を乾燥させる効果があることを提唱した。

初期金星への天体重爆撃の数値モデルを構築し,天体重爆撃によって粉砕・掘削される岩石の総量を計算したところ,原始金星においては主要な酸素消費源になり得ること,強い紫外線による宇宙空間への水素散逸の効果と合わせると,金星表層から地球の海洋質量相当の水分を消失させる可能性があることを示した。

初期地球にも金星と同程度の天体重爆撃があったと推定されるが,地球は太陽からの距離が金星よりもわずかに遠いため,水蒸気大気は凝縮して海洋を作る。従って若い太陽からの紫外線による光化学分解を免れたと考えられるという。

この場合は天体衝突によって岩石塵が大気中に放出されても,酸化反応が効率よく進むことはない。従って表層水が液体だったか,気体だったかという形態の違いによって,惑星形成過程の末期に必然的に起こる天体重爆撃に対する表層環境の応答に劇的な違いが生じ,地球と金星が作り分けられたと考えられるといしている。

今回の研究成果は形成末期の天体重爆撃が惑星の地殻・マントルと初期惑星大気を激しく混合させ得ることを示すもの。莫大な量の岩石塵と惑星大気の間の化学反応は初期大気質量や組成を大きく変える可能性がある。

この結果は,金星の表層水の問題だけでなく,系外惑星の大気進化過程にも重要な役割を果たした可能性があることをも示唆する結果だとしている。