筑波大ら,磁場で藻類の光反射特性を明らかにすることに成功

筑波大学は広島大学との共同研究により,藻類の細胞外被・外殻結晶の向きを磁場で遠隔操作する手法を開発し,円石藻のつくる炭酸カルシウムの円盤状の微結晶(円石)が光を効率的に反射する方向を特定することに成功した(ニュースリリース)。

藻類の中にはその進化の過程で微結晶を細胞表面に配置するようになったものも多くあり,この微結晶が水中において太陽光を有効利用するために使われているという仮説がある。しかし,この微結晶が太陽光を遮光するのか,レンズのように集光するのかに関しては,いまだ決着がついていない。

一方,研究グループはこれまでに,魚のうろこに含まれるグアニンという核酸塩基の結晶(これにより魚のうろこがキラキラと光を反射する)が磁場に応答することを見いだし,グアニン結晶板(長さ20μm)の光反射特性を磁気で制御することに成功していた。

そこで,この技術を藻類のさらに小さな外被結晶へ応用できるのではないかと着想し,円石藻が身に付けている炭酸カルシウムの微結晶ココリスが,はたして日傘の役割を持つのか,太陽光の届きにくい海中で光を集めるのか,あるいは両方の機能をもつのか,その光学機能解明に挑んだ。

今回,万物が磁場にさらされた際にもつ磁性,すなわち反磁性をヒントにした。一般的に反磁性は非常に弱いため,この特性を利用するには数テスラ以上の強磁場が必要と考えられてきた。しかし,前述の魚のグアニン結晶の光反射の計測原理をヒントに,マイクロメートルサイズの円石を水中で任意の方向に向かせることができるのではないかと考え,円石藻の円石の光反射特性を明らかにするための新手法開発を進めた。

この結果,円石藻E.huxleyiが形成する円盤状の炭酸カルシウム結晶複合体である円石が,その円盤面の法線方向が磁力線に対し主に垂直となる磁場配向を起こすことを世界で初めて発見した。また,微結晶一個が水中で適度なブラウン運動を行なう自由度のある条件下では,炭酸カルシウムのカルサイト結晶のc軸が磁力線に垂直になるような磁気回転運動が400mT以上の磁場下で生じることを明らかにした。

これまでの後方光散乱の原理による分光手法では,円石集団の中でランダムな配向状態にある円石の解析しかできなかった。それに対して,この手法では直径約3μmの円石一個を磁場で回転させることにより,光反射の強度分布を明らかにすることができる。その結果,円石の円盤面に平行に入射した光は側方散乱が抑制され,円石の円盤面に垂直に入射した光は強く散乱されることが明らかとなり,円石が光を効率的に反射する方向を特定することに成功した。

今回の研究成果により,円石藻の表面付近の円石が光を遮蔽する配向角と光を細胞内へ導入しやすくする配向角について,その光波長依存性を検討することが可能となった。

その結果として,外被・外殻結晶をもつ藻類が,その微結晶をどのように利用しているのかを解明する道を開き,研究が大きく前進した。さらに,マイクロメートル・オーダの微結晶を永久磁石程度(数百ミリテスラ)の磁場で,非接触かつ任意の方向に向ける技術を,マイクロ光学素子の部品として応用することも期待できるとしている。

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