医科歯科大,光で細胞内カルシウムシグナルを操作する技術を開発

東京医科歯科大学の研究グループは,岡崎統合バイオサイエンスセンター,東京大学との共同研究で,光を用いて効率よく細胞内カルシウムシグナルを自在に操作する技術を開発した(ニュースリリース)。

カルシウムイオンはほとんど全ての細胞において重要な役割を果たす細胞内シグナルで,多様な細胞機能を制御している。カルシウムシグナルの作用時間は細胞機能によってミリ秒から数時間まで様々であり,また同一細胞内でもシグナルが生じる場所によって効果は異なる例が多数知られている。

そのようなカルシウムシグナルの役割を詳細に調べるために,特定の時間,特定の細胞局所においてカルシウムシグナルを効率良く誘導する技術の開発が求められていた。光は細胞へのダメージが少なく,時間的・空間的に自在に操作できることから,光によりカルシウムシグナルを誘導する人工タンパク質がこれまでにも報告されているが,カルシウムシグナルの誘導効率などを改善する必要があった。

研究グループでは光により細胞内カルシウムシグナルを効率よく制御する方法の開発を試みた。植物由来のタンパク質フォトトロピン1の光感受性ドメイン(LOV2)は青色光を照射することで構造変化を起こすことから,光スイッチとして利用することができる。また,カルシウム選択的イオンチャネル(Orai)のチャネル開閉を制御する分子としてStimタンパク質が知られていた。

研究グループではLOV2とStimの融合タンパク質を作製することで青色光によりStimタンパク質の機能を制御する光スイッチ BACCS(Blue light-activated Calcium Channel Switch,青色光活性化カルシウムチャネルスイッチ)を作製した。

マウス海馬初代培養細胞にBACCSを発現させ,神経突起の先端に青色光を照射したところ,局所的にカルシウムシグナルを誘導することができた。このことから特定の細胞の中の特定の部位におけるカルシウムシグナルを操作することが可能であることが分かった。またカルシウムシグナルは NFATという転写因子を介して特定の遺伝子群の発現を誘導することが知られている。

BACCS 発現細胞に青色光を照射することで実際にNFAT転写因子依存的な遺伝子発現を誘導することができた。またBACCSの遺伝子を導入し嗅神経細胞で発現するトランスジェニックマウスを作製して嗅覚上皮を解析したところ,青色光の照射により神経細胞が応答することを確認することができ,BACCSの動物個体への応用も可能であることを示した。

今回の研究では,BACCSは青色光により簡便に早く大きなカルシウムシグナルを誘導できること,そして特定の時間に特定の場所でカルシウムシグナルを誘導できること,さらに培養細胞・動物個体の両方に利用できることが確認できた。

今回開発したBACCSは従来のカルシウムシグナル光スイッチと比べて,応答の大きさや速さの点で大きく改善された。さらに様々な細胞種,そして動物個体での使用も可能であることから広く様々な研究に利用できると考えられるという。

今回の研究で青色光により細胞内カルシウムシグナルを自在に操作することが可能になり,糖尿病等の内分泌に関わる疾患や高血圧・動脈硬化などの平滑筋収縮に関わる疾患などの研究にも応用できる可能性がある。研究グループはBACCSが様々な生命科学の研究の発展に貢献することを期待している。

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