奈良先端大,高感度の感光材料を開発

奈良先端科学技術大学院大学は,半導体加工技術や3Dプリンタなどに幅広く利用される感光材料の高感度化技術の開発に成功した(ニュースリリース)。

感光材料は光を受けて発生した酸に反応するが,今回,その酸をつくる段階を高効率化する光酸発生剤を開発した。この技術を使うことで,半導体の超微細な回路などを生成するフォトリソグラフィ加工,3Dプリンタの光造形加工等を2倍以上高速化する事が期待できる。

現在,光が当たって反応する光反応材料は幅広い産業の基盤技術となっており,フォトリソグラフィ材料の一部では光が当たって酸が発生する光酸発生剤と,酸と反応して分解するレジスト材料を組み合わせることで光パターンを転写する技術が使われている。

また,類似の光酸発生剤は3Dプリンタなどでも使われている。これは酸が存在すると硬化する光重合分子を光酸発生剤と組み合わせて使われている。さらに,光酸発生剤は医療応用にも展開が期待されている。たとえば胃や大腸に発生する癌の治療に,光を当てることで癌細胞を破壊する光線力学療法が適用されてきた。

これらの光酸発生剤の光感度を高めることが出来れば,短時間の光照射や弱い光源(ランプ)でも効率よく製造が可能になり,また医療面では短時間の光照射で済み,正常な細胞を破壊することなく患者への負担を低減できる可能性がある。従来の光酸発生剤の光反応効率は20~30%程度とされており,その高感度化は光加工プロセスの高速化・省エネ化に向けた技術課題とされている。

研究グループは,これまで研究を進めてきた光を吸収して色が変化する高感度のフォトクロミック分子をもとに,その構造を変えて酸がつくられるようにした新たな光酸発生剤を開発した。この分子に紫外光を照射するとメシル酸という強酸を放出し,その反応効率は54%で光酸発生剤としては最大値を示した。

具体的には,これまで同研究グループが開発した高感度フォトクロミック分子の2つのメチル基に変えて,それぞれ-H(水素原子)と-OSO2CH3(メシル基)を導入した分子を開発した。

この分子に紫外光を照射すると,強酸であるHOSO2CH3(メシル酸)を放出した。すなわち光酸発生剤としての機能が確認された。その反応効率は54%で光酸発生剤としては最大値を示した。

光照射によって生じたメシル酸は光重合触媒としてよく知られており,実際に3Dプリンタなどに使われているエポキシモノマーの重合が進行することが確認された。

光による酸発生の機構としては,はじめにフォトクロミック反応の着色反応と類似の反応が進行し,さらにメシル酸が放出される2段階で進むこと,特に2段目のメシル酸の放出反応は100%の効率で進行することなどが明らかになった。

今回,実証した光酸発生剤は,光重合によるポリマー形成の他,ポリマーの光分解による光可溶化にも展開可能であることは,その原理をすでに確認しているという。また光感度を表す光反応効率は54%と改善の余地があるが,すでにその後の研究から75%以上まで高めることが可能であることを見いだしている。今後は95%以上の光反応効率も期待できるとしている。