東大ら,ダークマターは湯川粒子に瓜二つとする新理論

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構とカリフォルニア大学バークレー校の研究グループは,宇宙の物質の80%以上を占めるとされる謎の物質ダークマターが湯川粒子,つまり1949年ノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹博士が1935年に提唱したパイ中間子と大変似た性質を持つという新しい理論を発表した(ニュースリリース)。

様々な観測結果から宇宙にはダークマターと呼ばれる謎の物質が80%以上を占めていること,そしてダークマターがなくては,星や銀河も誕生しなかったことがわかっている。しかし,ダークマターそれ自身がどのような性質を持つどういった物質なのかということは未だ分かっておらず,現在,実験と理論の両面から活発に研究が行なわれている。

理論研究ではダークマターについて多種多様な予想がされている。例えば,標準理論を越える新しい物理理論として注目される超対称性理論。そこに登場する超対称性粒子がダークマター候補ではないかという理論や,超弦理論から説明される4次元を越える余剰次元を運動する粒子が,ダークマターなのではないかという理論などがある。これまでのところ多くの理論において,ダークマターは通常の物質とは大きく異なる性質を持つ粒子だと考えられている。

今回研究グループは,ダークマターに対する従来の考え方とは大きく異なる新しい理論を発表した。研究グループが今回ダークマターの候補として提唱した粒子 SIMP(Strongly Interacting Massive Particle)は,パイ中間子と大変似た性質を示す。

パイ中間子は,1949年ノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹博士が1935年に提唱した粒子で,陽子や中性子など原子核を形作る核子間で力を媒介し原子核を安定的に保つとされた。そして,パイ中間子の性質は2008年ノーベル物理学賞受賞者の南部陽一郎博士が1960年に提唱した「自発的対称性の破れ」という考え方で正確に記述された。今回の新理論は南部理論に基づく湯川粒子の性質が,ダークマターとしてふさわしいことを指摘したもの。

研究グループはこの理論によって,銀河の構造について,今まで問題だった観測とコンピュータシミュレーションの間のずれを説明することができるという。また,ダークマターについて,今までの考え方と今回の理論との間にはいくつかの重要な違いがあることから,今後の実験的検証に大きな影響を与えるものだとしている。

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