筑波大ら,水素の高速核スピン変換のメカニズムを実験的に立証

筑波大学と産業技術総合研究所,京都大学,九州大学,東北大学らの研究グループは,理化学研究所(理研),大阪府立大学,島根大学,スペインの研究グループと共同で,多孔性配位高分子の中に水素分子を吸着させ温度を制御すると,水素分子の細孔内での配列が変化することを,大型放射光施設SPring-8の理研物質科学ビームラインBL44B2を用いて観測した(ニュースリリース)。

また,水素分子は,互いのスピンの向きが平行のオルト水素と,スピンの向きが反平行のパラ水素二つの核スピン状態を取り,通常は両者が混在した状態で存在するが,細孔内での水素分子の配列変化に伴い,ほとんどのオルト水素が数百秒以下でパラ水素に転換されることを,ガス吸着下ラマン散乱その場観測により明らかにした。

さらに,この高速なオルト―パラ転換の機構を解明するため,X線回折で求めた電子密度,静電ポテンシャル分布から細孔内の電場勾配を求めた結果,細孔内には場所によって~1022V/m2の電場の勾配が存在し,配列変化に伴い,電場勾配を受けた水素分子の核スピンが高速に転換することがわかった。

この成果は,近年,実験・理論研究が盛んに行なわれている電場勾配によるオルトーパラ転換を分子配列,核スピン状態,電場勾配の全てを観測することに成功したもの。多孔性配位高分子の真空の空間における電場勾配の違いがオルトーパラ転換という一般に触媒が必要な反応を促進することを示し,空間の有する新機能を構造観測から開拓した。

研究グループでは,この電場勾配を利用した細孔内での新現象,新機能の探索が今後進められていくと期している。

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