阪大,ブタジエンから高付加価値な化合物を合成

大阪大学の研究グループは,安価な銅触媒を用いたブタジエンの内部炭素選択的なアルキル化反応を達成した(ニュースリリース)。

ブタジエンは最も分子量の小さな共役ジエン(二重結合を2つもった炭化水素)であり,安価かつ反応性に優れた炭素資源としてタイヤやゴムホース等の高分子素材の原料やブタンジオール,クロロプレン等の工業的に重要な化合物の原料など幅広い分野で利用されている。

複数の分子を連結し,より複雑な構造の化合物を合成する有機合成反応において求められる要件の一つに,複数の反応し得る位置を選択し,望みの位置で反応を行なうことが挙げられる。この様な観点から見ると,ブタジエンには末端(外側)炭素と内部炭素の二種類の反応可能な位置がある。

しかし,これまでのブタジエンの反応の多くは末端炭素上での反応であり,より混み合った内部炭素で分子を連結する一般性の高い方法は知られていなかった。特に,アルキル基をブタジエンの内部炭素に導入し,分岐構造を有する末端オレフィンを与える反応は知られていなかった 。

研究グループは,安価かつ生成物に残存しない環境調和型配位子としてブタジエンを銅,ニッケル,コバルト触媒によるクロスカップリング反応に利用し,その手法を用いて有機分子の基本骨格を構築する反応を世界に先駆けて開発していた。これらの研究の過程で,反応条件によっては銅触媒を用いた際に触媒が失活し黒色の沈殿が生じ,クロスカップリング反応が停止してしまうことがわかった。

この失活した触媒を逆に利用する方法を検討する中で,フッ化アルキルとブタジエンが反応することを見いだし,ブタジエンの内部炭素にアルキル基が導入された末端オレフィンが生成することを明らかにした。

末端オレフィンは,重合反応のモノマーとして広く利用されている。また,炭素―炭素二重結合部位を足掛かりに様々な官能基が導入可能であり,合成試剤として有機合成上利用価値が高い。

研究では安価な炭素資源から分岐構造を有する末端アルケンを合成する新手法を見出した。この成果は,様々な有機材料の合成手法の開拓につながると期待される。また,ブタジエンはエタノールから合成することが可能なので,バイオエタノールから,高付加価値化合物である様々な末端オレフィン類へと変換する新たな可能性を示す。

さらに,有機基と銅元素からなるギルマン試薬は,大学の化学系学部の有機化学で習う代表的な有機金属反応剤。今回,ギルマン試薬が分解した化学種が,触媒として機能することを明らかにした。これは,反応剤として広く利用されている銅元素の新たな活用法を示す成果であり,今後更なる展開が期待されるとしている。

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