阪大ら,レアアースの電荷分布の決定に成功

大阪大学,理化学研究所,茨城大学,立命館大学,広島大学,摂南大学は共同で,これまで測定困難だった現実の立方晶希土類(レアアース)化合物における局在的な電子の空間的な広がりかた(電荷分布)を決定した(ニュースリリース)。

電子が完全に満たされていない局在性の強い不完全殻を有する固体では,不完全殻の占有軌道対称性に起因した異方的電荷分布が物質の有する機能の重要な鍵となることがある。

電子が動きにくい不完全殻を持つレアアース化合物でも,磁気/多重極秩序・超伝導などの形成といった様々な物性を示すことが知られている。

これらの物性解明には,固有状態における最低のエネルギーの状態(基底状態)における占有軌道対称性から決定される球対称からずれた電子の空間的な広がりかた(異方的電荷分布)を知ることが重要だが,それを実際に決定するのは困難だった。

研究グループは,固体内で動きにくい電子を有するイオンからの内殻光電子スペクトル形状が線二色性と角度依存性を持ち,かつ,それから異方的電荷分布を決定できることを発見した。

物質に照射した単色光によって生成された光電子の運動エネルギーを測定して物質内部の電子状態を知る光電子分光では,入射光の偏光ベクトルと観測する光電子の方向でスペクトルに違い(線二色性)の出ることが分かった。これについて,このような予測は世界的にも全くされていなかった。

研究グループはこの発見をもとに,研究手法を立方晶YbB12に適用し,基底状態における異方的電荷分布の解明に成功した。その基底状態はかねてより4重縮退であると考えられΓ8状態が有力だったが,Γ6状態とΓ7状態の偶然縮退した状態が基底である可能性も否定しきれていなかった。

研究グループは,2枚のダイヤモンド単結晶を用いて硬X線の偏光を制御する技術と,角度分解光電子分光法を組み合わせた新研究手法を大型放射光施設SPring-8理研ビームラインBL19LXUで開発して実験に成功した。

この測定結果から多重項構造とよばれる複数のピークで小さいが有為な線二色性の観測に成功し,光電子放出方向が[100]方向と[111]方向の場合で線二色性の符号が反転することも見出した。

Γ8基底状態を仮定した理論計算は実験結果をよく再現し,Yb3+基底状態がΓ6状態とΓ7状態の偶然縮退ではなくΓ8状態にあることが解明できた。

今回の研究では局在的な不完全殻を有するYb3+イオンに対して行なわれたが,ここで開発された研究手法は原理的には局在不完全殻を有する全ての単結晶物質に対して有効となる。

今後,この新たな研究手法を他の物質に用いることで,例えば脱レアアース磁性材料の開発やより高い転移温度を示す高温超伝導体の開発といった機能性材料開発の加速,グリーンイノベーションにむけた材料開発への応用なども期待できるとしている。

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