大阪大学の研究グループは,近接する2つの物体の間に働く静電気力を精密に測定する方法を開発した(ニュースリリース)。
力の研究には,物体同士の間に混在する様々な力を分離・抽出して,それぞれがどのような起源に依るものなのかを明らかにすることが重要となる。原子間力顕微鏡は,物体同士に働く微弱な力を高感度に検出できるため,その方法として広く利用されてきた。
しかしながら,従来の原子間力顕微鏡は,2つの物体間の距離に対する力の変化(力の勾配)を検出するため,距離に依存しない一様な力の成分は検出できない。例えば,静電気力には,距離に依存する成分と依存しない成分が含まれるが,距離に依存しない成分は検出できないので,精密な静電気力の測定には至らなかった。
そこで研究グループは,従来の原子間力顕微鏡を基に新しい測定手法を開発し,これにより,物体同士に働く静電気力を精密に測定することに成功した。
この手法では,静電気力の勾配ではなく,静電気力が行なった仕事を測定する。この仕事から,静電気力を距離に依存しない一様な成分も含めてすべて検出することができる。
通常の原子間力顕微鏡は,鋭い針(探針)が取り付けられたレバーを試料に近づけた状態で振動させて,探針と試料の間に働く力の勾配を検出する。開発した手法では,このレバーの振動と同期させたパルス電圧を試料に印可する。これにより静電気力がレバーに対して行なった仕事を高感度に検出できる。
開発した装置を用いて,2つの物体の間に働く静電気力を測定した結果,従来の装置では測定できなかった,距離に依存しない一様な静電気力の成分を検出していることが確認できた。シミュレーションの結果からも,この手法が静電気力のすべての成分を精密に測定できていることが明らかになった。
今回の静電気力測定技術は,数ピコニュートン(1ピコニュートンは1ニュートンの1兆分の1の力)の微弱な静電気力を捉えることができる。将来,このような高感度測定は,検出自体が困難なカシミア力や万有引力といった非常に小さな力を精密に測定するための要素技術として応用できる。これにより,「力」に対する根本的な理解が大きく前進するとしている。
また,開発した手法は,原子間力顕微鏡を基盤としているため,高い空間分解能も兼ね備えている。このような手法は,物質の様々な電気的性質を微視的に検出する上で有効であるため,材料評価技術を大きく前進させ,より高品質なデバイス実現への指針となることも期待できるという。
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