東大,藻類の光スイッチの協調様式を解明

東京大学の研究グループは,①好熱性シアノバクテリアが示す細胞凝集が三つのシアノバクテリオクロムによって制御されていること,②それら三つはそれぞれに固有の性質をもち,異なる役割を果たすこと,③それらの協調によって,光の色に感度良く応答し,かつ厳密なシグナル伝達を可能にしていることを明らかにした(ニュースリリース)。

シアノバクテリアは陸上植物と同じような光合成を行う微細藻類であり,光合成に必須な光を感知するための高度な光受容機構を備えている。シアノバクテリアがもつ光受容体群の中でも,「シアノバクテリオクロム」は可視光全域を含む様々な色の光を感知する。

シアノバクテリオクロムはひとつのシアノバクテリアに存在する種類が他の光受容体に比べて顕著に多いという特徴を持つが,その意義については全く不明だった。

研究グループは,シアノバクテリアであるThermosynechococcus属の全ゲノムの解析により,候補遺伝子であるsesBとsesCに着目し,解析を行なった。

その結果,SesBタンパク質は青色光吸収型とシアン色光吸収型とを可逆的に光変換することがわかった。また,SesBタンパク質はc-di-GMPを分解する活性を持ち,それは青色光照射下に比べてシアン色光照射下で高い活性を示した。

これによりSesBはc-di-GMPを介したシグナル伝達をオフにするシアン色光受容体であることが示唆された。SesCタンパク質は青色光吸収型と緑色光吸収型とを可逆的に光変換することがわかった。

SesCタンパク質はc-di-GMPを合成および分解する活性の両方を持ち,青色光照射下でc-di-GMPを合成し,緑色光下でc-di-GMPを分解することもわかった。よってSesCはc-di-GMPを介したシグナル伝達を制御する青/緑色光のデュアルセンサであることが示唆された。

次に研究グループは遺伝子の破壊株を作製した。Thermosynechococcus vulcanus は低温下に青色光照射に依存したかたちで細胞が凝集を示すことが知られていたため,この細胞凝集への影響を調べた。

sesB遺伝子破壊株を解析すると,青色光でのみならず,シアン光下でも細胞凝集が誘導されるようになった。よってSesBはシアン光下で細胞凝集を抑制することによって,細胞凝集の誘導を青色光に限定し,結果としてこの応答の,光の色に対する感度を上げていることがわかった。

sesC遺伝子破壊株を解析すると,光の色に対する細胞凝集の応答が弱まった。よってSesCは細胞凝集を制御するシグナル伝達の厳密性を上げていることがわかった。

これらの解析から,複数のシアノバクテリオクロムがそれぞれ独特な性質をもち,ことなる役割を果たすことによって,シアノバクテリアが示す高感度かつ厳密な光受容機構を実現していることがわかった。

今回解明した,複数の光受容体の協調に基づいたシグナル伝達経路の理解が進めば,特定の色の光を照射することで自在に細胞の凝集を誘導でき,光合成によるバイオマス生産を恣意的にON/OFFすることや,効率的な細胞回収法を提供できることが期待できるという。

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