京大,多重染色/高精細観察が可能な超解像顕微鏡法を開発

京都大学の研究グループは,既存の手法を超えた高精細な画像が得られ,観察できる標的タンパク質の種類に上限がない超解像顕微鏡法IRIS(Image Reconstruction by Integrating exchangeable Single-molecule localization)を開発した(ニュースリリース)。

昨年のノーベル賞の受賞対象となった超解像顕微鏡は,従来,光学顕微鏡の限界とされていた分解能よりも一桁小さい分解能でタンパク質の分布を観察することを可能にした。

しかし,分解能の向上に伴い,標的タンパク質を可視化するための蛍光抗体や蛍光タンパク質の密度の限界のため,画像の忠実度が悪化する。

また,蛍光タンパク質を融合させた標的タンパク質を用いた場合でも,内在性の標的タンパク質を標識体に全て置きかえることは困難であるともに,外来性の融合タンパク質を大量に導入する悪影響を避ける必要性から標識密度にはおのずと限界がある。

よって,従来の超解像顕微鏡法の分解能の限界は20nm付近であることが予想される。一方,多種類のタンパク質を同一標本内で超解像顕微鏡を用いて可視化する試みがあるが,その場合でも蛍光プローブが狭い範囲にある複数種のタンパク質を標識する際,物理的に互いに干渉することで標識密度が下がり,画質が悪化することが懸念されてきた。

開発したIRISでは,標標的に繰り返し結合解離するタンパク質の部分断片を蛍光プローブとして用いて,結合位置を抽出し,超解像画像を再構成する。このためプローブの結合回数に応じて標的の標識率を上限なく高めることができ,高密度標識による高精細な画像を得ることができる。

さらにプローブを洗い流して順次別のプローブと交換することで,原理的に上限のない種類数のタンパク質を観察することができる。

IRISを用いることでアクチンフィラメントに対する標識密度は,抗体の結合できる最大密度よりも二桁近い高密度を容易に達成でき,忠実性の高い画像が得らた。また分解能は,最も高い分解能をもつ超解像顕微鏡と遜色ない23nmが得られた。

さらに多様な細胞構造を可視化するプローブを開発し,細胞全体のアクチンフィラメント,微小管,中間径フィラメント,接着斑を同時に高分解能で可視化する画像を得ることができた。

IRISによる高密度標識による高精細な画像と無制限の多重染色は,様々なタンパク質が複雑に結合することで制御される生命現象を解明するための強力な手段となる。IRISは,標的を可視化するための標識プローブを順次交換しながら画像をつくる。

その特徴から,①無制限の多重染色,②狭い領域に共存する複数の分子配置の捕捉を可能とするとともに,③長時間の撮影による三次元超解像顕微鏡や④高輝度の照明によりプローブ結合位置測定精度を向上させたスーパー超解像顕微鏡へと発展する潜在的能力を持つ。また,⑤細胞内で分子プローブが結合するサイトのマッピングや,⑥タンパク質間の結合に働くモチーフの検索にも応用できる。

研究グループでは細胞骨格にのみならず多数の生体分子に対するプローブの開発を現在進めている。細胞研究への応用のみならず,癌や神経変性疾患など病気に関係する異常なタンパク質の分布や蓄積をいちはやく捉えるなど革新的な病理診断・病態解明への応用も視野に入れた開発を進めている。

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