信越化学,PID現象を抑制する高耐久性太陽電池封止材を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,信越化学工業(信越化学)と共に,信越化学が開発した太陽電池モジュール用のシリコーン封止材を用いた太陽電池モジュールの評価試験を行なった(プレスリリース)。

太陽光発電システムは,様々な規模・形態での導入が拡大している。近年では,太陽光発電システムを海上や沿岸部などに設置するケースもあり,従来よりも厳しい環境下での信頼性が求められている。また,単結晶n型シリコンセルを用いた高効率太陽電池モジュールの導入が増えており、モジュールに高電圧がかかって出力が大幅に低下してしまうPID現象への耐性を評価する必要性が増している。

信越化学は,産総研の高信頼性太陽電池モジュール開発・評価コンソーシアムに参画し,シリコーン封止材の研究開発を行ってきた。また両者はシリコーン封止材を使用した実用サイズの太陽電池モジュールを作製し,信頼性を評価した。更にPID試験(AIST法)により,シリコーン封止材を用いた単結晶n型シリコン太陽電池モジュールのPID耐性を評価した。

太陽電池モジュールには,封止材に信越化学が開発したシリコーン封止材を使用し,太陽電池セルなど,封止材以外の部材は同コンソーシアムの標準部材を使用した。多結晶p型シリコン太陽電池セルを直列に42枚接続し,真空加熱ラミネーターを使ってシート状のシリコーン封止材を用いた実用サイズの太陽電池モジュールを作製。この太陽電池モジュールについて,高温高湿試験と温度サイクル試験を行なった。

高温高湿試験では,3000時間後に出力比 99.8%,温度サイクル試験では,600サイクル後に出力比 99.1%であった。また,EL画像では,試験前から見られるセル起因の微小な暗部を除き,試験による劣化の進行に伴う新たな暗部の発生は観測されなかった。

太陽電池モジュールの認証試験の合格基準は,高温高湿試験1000時間後,温度サイクル試験200サイクル後のいずれにおいても,初期出力の95%以上を維持することと定められており,シリコーン封止材を用いた太陽電池モジュールは信頼性に優れていることが確認された。

また,シリコーン封止材と産総研で標準的に使用する単結晶n型シリコン太陽電池セルを用いて太陽電池モジュール(シリコーン封止モジュール)を作製し,PID試験を行なった。試験結果を比較するために,封止材として一般的に用いられているEVAを用いた単結晶n型シリコン太陽電池モジュール(EVA封止モジュール)も作製した。

PID試験(AIST法)は,85℃の温度において,モジュールのガラス表面の全面に設置したアルミ板に対してセルに-1000 Vの電圧を2時間かけて行ない,試験前後の太陽電池モジュールの出力変化を評価した。

その結果,シリコーン封止モジュールは,PID試験前後で電気特性は変わらず,EL画像でも変化が見られなかった。一方,EVA封止モジュールでは,PID試験前後で電気特性に出力低下がみられ,EL画像でも輝度が低下することが確認された。

このように,開発したシリコーン封止材は,今回用いたn型シリコン太陽電池において,高いPID耐性を示すことがわかった。ただし,シリコン太陽電池はセルの種類や構造によりPID耐性の有無や劣化メカニズムが異なることから,今後,より詳細な評価が必要だとしている。

研究グループは今後,シリコーン封止材シート量産化の促進,n型シリコン太陽電池モジュールのPID現象発生のメカニズムとシリコーン封止材による抑制メカニズムの解明を行なうとしている。

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