理研,光遺伝学で楽しかった記憶の活性化に成功

理化学研究所(理研)の研究チームは,うつ様行動を示すマウスの海馬の神経細胞の活動を操作して,過去の楽しい記憶を活性化することで,うつ様行動を改善させることに成功した(ニュースリリース)。

一般的に使われているうつ病の治療薬の効果は個人差が大きく,その克服は容易ではない。研究チームは2014年に,光遺伝学を用いて,マウスの嫌な体験の記憶を楽しい体験の記憶に書き換えることに成功しており,今回,過去の楽しい体験の記憶に関わる海馬の神経細胞を直接活性化することで,うつ病の症状を改善できないかと考えた。

研究はまず,オスのマウスにメスのマウスと一緒に過ごすという楽しい体験をさせ,その時に活動した海馬の歯状回の神経細胞群を遺伝学的手法により標識した。次に,そのオスのマウスに体を固定する慢性ストレスを与えることで,うつ様行動を示すことを確認した。

その後,このうつ状態のマウスの海馬歯状回で楽しい体験の記憶として標識された神経細胞群を,光遺伝学の手法により人工的に活性化したところ,うつ状態の改善がみられた。

このうつ状態の改善は,海馬歯状回から扁桃体基底外側部を通り,側坐核の外側の殻であるシェルと呼ばれる領域へとつながる回路の活動によるものであることがわかった。扁桃体は「恐怖」「喜び」といった情動の記憶に関わる領域であり,側坐核はやる気や意欲,さらに報酬をもらった時に感じる喜びなどと関連する領域だと考えられている。

したがって,この結果はメスのマウスと一緒にいるという楽しい体験の最中に実際に感じた喜びの記憶や感覚などが細部まで呼び覚まされて,症状の改善につながっていることを示唆している。

今回の研究は,楽しい体験の際に活動した神経細胞群を直接活性化することで,マウスのうつ状態が改善することを初めて示したもの。研究グループはこの成果について,今後のうつ病の新しい治療法開発に役立つかもしれないと期待をしている。

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