東北大学の研究グループは,ガスアトマイズ法(高温で溶解した金属や合金(溶湯)に対して超音速のガスジェット流で粉砕して粉末化する工業的な製造方法)により作製されたアモルファス合金の粉体とワイヤを含む生成物の直径分布が対数正規分布に従うことを見出した(ニュースリリース)。
溶融状態の合金は,高い粘性を持つため,これが引き延ばされると糸状になり易い性質(曳糸性)が発現される。曳糸性は,溶融した合金の粘性,表面張力,ならびに引き延ばし速度から評価することが可能だが,更に生成されたワイヤ直径の評価基準が確立されれば,これをベースとして解析する手段が得られ,更に詳細なナノワイヤの生成メカニズムの解明に役立ち,サイズの揃ったナノワイヤを生産するような研究の展開から産業的に利用できる可能性が拡がる。
研究グループは,パラジウム系アモルファス合金に対してガスアトマイズ法を用いて実験を行ない,合金の溶湯温度を変化させた際に生成する形状や直径の分布を詳細に求めた。特にワイヤ形状の直径分布が対数正規分布に従うことを見出した。
これにより平均と標準偏差が求められ,これらの値を累積分布関数へ代入して,ワイヤ積算数の50%に相当する値,即ち中央値(メディアン径)が求められた。実験的にメディアン径が求められると,生成したワイヤの評価基準が得られ,ワイヤの形成機構について調べることが可能になる。
曳糸性とレイリー・プラトーの不安定性から,液糸と液滴の緩和時間の比がオーネゾルゲ数(Oh)と呼ばれる次元を持たない物理量として表すことができる。液糸の緩和時間が液滴の緩和時間よりも長い場合,即ちOh > 1の場合はワイヤ形状が優先的になり,反対に液滴の緩和時間が液糸の緩和時間よりも長くなる場合,即ちOh < 1の場合は粉末形状が優先的になる。
今回の実験では,Ohが増加することによりワイヤ形状の比率も増加することが明らかになる一方で,ワイヤの直径も増大することが判明した。更に,Oh = 1近傍は細いナノワイヤーが主要生成物となるための最適条件であることが判明した。
研究グループは今後,粘性や表面張力の異なるアモルファス合金材料を用いて実験を行ない,生成物が対数正規分布に則るかどうか検証するとともに,直径分布領域が狭くよりサイズの揃ったナノワイヤの作製法の開発に繋がるよう研究を進める予定。このサイズが揃ったナノワイヤは産業的に,極小型磁気センサ,高機能性触媒材料,複合強化材料,透明導電膜などへの応用が期待できるとしている。